アキュメン流イノベーションの生態系を築くリーダーの育て方(その1)

  若かりし頃のジャクリーン・ノヴォグラッツは、「独力で世界を救う」つもりだった。しかし、はじめてアメリカへ行ったとき、考えが変わった。「彼らは救ってもらいたいのではなく、自分で自分の問題を解決したい、自分で自分のことを決めたい」のだと知ったからだ。以来、貧しい人たちのことを、施しの列に並ぶしか能のない人々と見るのをやめた。

 その代わりに、政府や慈善団体だけでは築けなかった効果的で持続可能なシステムを、ビジネスモデルによって可能にする方法を考え始めた。そして、2001年に、アキュメンを設立した。アキュメンは、低所得者層に医療や水、住宅、教育、エネルギー、農業資金へのアクセスを提供している新しい企業を見つけて、出資し、育て、拡大させる会社だった。

 アキュメンはベンチャーキャピタルのように、個人や団体、企業から出資を募るとともに、ペイシェントキャピタル(忍耐強い資本)という資本モデルのもとに運営された。ノヴォグラッツが考案したペイシェントキャピタルとは、慈善の精神に支えられた長期かつハイリスクの社債ないし株式投資のようなものだ。その目的は金銭的リターンではなく、社会的なリターンを最大化することにある。

 アキュメンの出資基準は明確である。「わたしたちが探したのは、先進的なビジョンを持ったリーダーに率いられ、ビジネスの手法で社会の問題を解決しようとしている企業です」とノヴォグラッツは言う。「ただし財務面の安定と、100万人の顧客獲得が見込めることが条件でした」。慈善事業でできることと市場でできることを繋ぐことが有効な手段と考えた。

 しかし、いざ始めてみると、優れた候補者を見つけるのは容易ではなかった。その理由は、アキュメンの求めるリーダーが、一般的なリーダーの型に収まらないタイプだったことにある。それは、非営利や公共の組織を運営できて、なおかつビジネスの能力のあるリーダーだった。加えて、従来の枠組みにとらわれない発想やコラボレーションができること、長期的な視点で考えること、限られた資源で目標を実現できることを求めた。

 このような条件を満たす人物はめったに見つからなかった。そこで、2007年、ノヴォグラッツは「グローバル・フェロー・プログラム」を立ち上げた。これはビジネスと社会事業が交わる分野のリーダーを育成する一年間の研修プログラムである。八年後、プログラムの修了者は24ヵ国の75人に達した。アキュメンは様々な経歴の優秀な若い人材を集めて、このプログラムを受けさせた。