イノベーションを導くリーダーに相応しい人

 リーダーシップで大切なのは、知識や行動だけではない。どういう人物であるかも大切である。著者たちが調査したリーダーたちは、文化や年齢・性別は様々だが、イノベーションのコミュニティーを育むのに役立つ、共通の性格をそなえていた。それは、「理想家であるとともに実際家」「全体的にものごとを考えるとともに行動的思考」「寛大であるとともに厳格」、そして最も重要なのが「平凡な人間であるとともに人並はずれて粘り強い」という点であった。

 1)理想家であるとともに実際家:イノベーションに長けたリーダーたちは、典型的な恐れを知らない情熱家だった。どんなに難しい問題にも果敢に挑み、限界を押し広げることに喜びを感じるタイプである。しかし、同時に、なにものにもとらわれない思考と、地に足の着いた思考とバランスが大事であることも理解していた。現実の壁を乗り越えるには、じっくり現実的な手段で取組む必要があることを何時も忘れなかった。

 2) 全体的にものごとを考えるとともに行動的思考:全体的または総合的にものごとを考え、問題に対処するときは、その複雑さに正面から取り組み、問題の核心を解き明かそうとした。問題の微妙な部分にもたえず目をむけ、組織のダイナミクスを理解し、イノベーションに伴う緊張関係のバランスを保つことができた。しかし、同時に行動力もあった。なんでもまず試してみる性格で、実験を繰り返すことをいとわない。解決策を見つけるには、考えだけでなく、実際の試行錯誤が必要であることを知っていた。

 3) 寛大であるとともに厳格:イノベーションを導くことは容易ではなく、労の尽きない仕事だった。ただしその努力の多くは陰に隠されていた。もし本人が望めば、高い役職に就くことはできたし、それは正当なことでもあっただろう。しかし、チームのメンバーたちを忘れず、メンバーに脚光を浴びさせた。

これには権限も手柄も分かち合おうとする寛大な心が必要である。多くのリーダーはその功労者として称えられることを嫌がり、自分のことよりも、チームのメンバーや集団の力があったことを必ず話題にする。しかし、メンバーに責任を持たせ、結果も求めた。計画がうまく行かなければ、ためらわずに変更し、最後まで結果が揚げられないものがいれば、メンバーから外すことも辞さなかった。

4) 平凡な人間であるとともに人並はずれて粘り強い:イノベーションに長けたリーダーたちも、みんな普通の人間たちだった。不安も抱けば、後悔もし、恐れもし、失敗もした。スランプが続いて自己防衛的になり、消極的になったりすることもあった。自分を見失うこともあった。しかし、くじけなかった。思い通りにいかなくても、粘り強く、何度も挑戦した。不確実さや、複雑さや、対立と向き合うことができた。

したがって、メンバーが途方に暮れたり、落胆したり、怖気づいたりしても、チームの混乱を落ち着かせることができた。何よりも大切なことは、自分たちが完璧でないこと、すべての答えを持ち合わせていないことを自覚していたことである。だからこそ、メンバーに助けを求め、ひいてはメンバー全員の天才の一片に気づき、それを活用できた。

 大きな可能性を秘めたリーダーの候補者を探すとき、「理解を追及する情熱」「全体を見る目」「寛大さ」「自分の欠点を認めて、助けを求める姿勢」といった点に着目する企業や組織はかなり少ないのではないだろうか。しかし、イノベーションのリーダーたちに最も多く見られたのは、まさにそれらの特徴である。メンバーが問題を創造的に解決できるよう環境を整えるのが、イノベーションに長けたチームのリーダーだった。