CaLit2とPLAから学べること

 スマーとシャルマンは、トップダウンの介入に頼らず、メンバー間につながりを築くことで、メンバー同士で創造的なしごとをさせた。二人とも、自分のふるまいを通じて、イノベーションに必要な開かれた態度や力を合わせようとする姿勢、たえず学ぼうとする向上心の手本を示した。また、二人は統治の仕組みと構造の導入も、おろそかにしなかった。

 目的と価値観が定まったならば、次に、イノベーションの生態系を維持するために必要なのは、参加規制だったからである。しかし、ふたりが一般的なリーダーと何よりちがうところは、イノベーションの生態系を築いて、これを維持するときに、透明性を保ちながらも、みんなを参加させることで、コミュニティー意識を育もうとした点である。

 イノベーションの生態系を維持するには、つねに気を配り、支援することが必要である。生態系のリーダーはいつでもメンバーの意見に耳を傾けなくてはならない。また、メンバーたちが失敗を恐れず、新しいことを試みられるよう、自ら手本を示す必要もある。PLAのメンバーの一人は、シャルマンを「誰の意見でも取り入れようとする」と評している。

 スマーとシャルマンはお互いによく似たリーダーだが、ふたりが置かれた立場には、大きな違いがあった。それは、PLAはファイザーによって選ばれた法律事務所のグループだった。ファイザーとPLAの間にいかなる契約が交わされても、あるいはいかに両者の関係が開かれたものであっても、ファイザーとPLAの巨大なクライアントであるという関係は常に変わらなかった。

その点が、自主的な参加者のグループであるCaLit2と全く違った。PLAでは考えられないほど、CaLit2はカリフォルニア大学二校の各学部の権利を最大限に尊重しなくてはならなかった。また、CaLit2のイノベーション力には危険もあった。スマー自身、「わたしたちは基本的に破壊者です」。スマーは、既存のルールや体制や評判、あるいは権利や特権を守りながら、破壊的にならなくてはいけないという矛盾した任務が与えられていた。

 正式な権利を持たないスマーは、各部門の利益と目標をCaLit2の利益と目標に一致させ、あくまで説得によってこの矛盾した任務を果たさなくてはいけなかった。スマーの事例は、命令という手段に頼らないリーダーの仕事のしかたのケーススタディでもあった。シャルマンのリーダーシップのなかで注目すべきことは、めったに正式な権限を行使しなかった点である。これは賢明な判断であった。