外の世界との架け橋を築き、未来に向かう

 スマーはこれまで三回、CaLit2の自分の執務室を移動させた。それはできるだけ現場の近くに身を置き、偶然の出会いを増やしたいと思ったからである。その姿勢の一つが、「山火事対策」にも表れている。南カリフォルニアの緊急対応スタッフと協力して、危機時の対応に使う情報技術の開発に取り組んだ。それがこの「山火事対策」であった。

 緊急時に、信頼できる情報を速やかな伝達が、いかに重要かが明らかになった。その情報とは、消防士、警察官、郡の役人、医療従事者などが、市民の生命や財産を守るためには、どこに警察や消防、レスキューといった資源があるのか、道路や橋はまだ使えるのか、火事はどこで発生し、今後どこへ広がりそうか、社会インフラの状況はどうかなどである。

 CaLit2の研究者は、緊急対応スタッフと共に、これらの問題にITを応用する方法を考えるため、専門家のチームを結成した。ITのほか、社会科学、組織行動、災害管理の専門家からなるその学際的チームは、サンディエゴスーパーコンピュータセンターの高速無線研究教育ネットワークで結成された。情報収集、管理、利用、伝達が目的である。

 このように、スマーは二校のなかの媒介役にとどまらず、外の世界との媒介役を務める活動を始めた。そのなかには、幅広い分野から新しいアイディアを見つけ出すため、著名な学会に参加するという地味な活動も含まれた。スマーによれば、「広く一般に知られる前に、生まれつつある未来を察知」して、CaLit2のインベーションチームに世界に一歩先んじたスタートを切らせることが目的だった。

 CaLit2はクアルコム、エリクソン、ボーイング、エミュレクスなど、産業界とも様々な連携をした。CaLit2の研究棟にある最先端の設備を活用するという企業との連携は、CaLit2の業務のなかでも、首脳陣の役割のなかでも、急速に重要な位置を占めるようになった。こうして、CaLit2やスマーの役割はますます広がっていった。

 スマーは、『リーダーにとって大切なことは、まずは学際的なプロジェクトの新しいチャンスを探すことです。次に、それが見つかったら、研究者や職員、学生、企業を集めてチームを結成し、資金調達の話になる前に、プロトタイプをどう完成させるかいろいろと話し合わせることです。そうするとチームのメンバーがお互いを深く理解し合えるので、とげとげしい雰囲気を和らげられます。このように「必要になる前にチームを育てる」ことが、CaLit2の一つの成功の秘訣になっています』と述べている。