媒介役になる

 CaLit2の大規模なグローバル事業の一つに、サウジアラビアのキングアブドラ科学技術大学(KAUST)とのパートナーシップがあった。KAUSTは、世界中の男女を受け入れている、科学技術の研究を中心にした大学院である。成果主義を導入するKAUSTでは、国内や世界の問題に取り組もうとする大胆な共同研究が、奨励されていた。

 CaLit2は「KAUST視覚化ラボラトリーシーケース」というコンセプトを考案し、大型液晶パネルを使ったコラボレーションやバーチャルリアリリティーのシステムを開発した。このテクノロジーはKAUSTの視覚化研究室のスタッフの協力を得て、サウジアラビアの新しい大学に導入された。以来、生化学や地球科学のデータを巨大ディスプレイで表示したり、世界中の研究者とリアルタイムでコラボレーションを行ったりするために利用された。

 このようなCaLit2の運営方法は、有名なベル研究所の手法に多大な影響を受けている。実際、サンディエゴ校の学長ボブ・ダインズをはじめ、CaLit2の設立者にはベル研究所に在籍していたことのある人が何人かいた。ベル研究所では現場にかなりの権限が与えられていて、組織にあまり序列がなかった。リーダーたちもメンバーに方向を示して、その方向に進ませることを自分たちの役割と考えていなかった。

 あるベル研究所の出身者によれば、リーダーはあくまで「同輩の中のリーダー」として振る舞い、その第一の役割は才能豊かなメンバーたちが協力し合って、各自の興味ある問題に取り組めるよう環境を整えることだった。CaLit2の環境もベル研究所と同じように固定的ではなく、研究者たちはプロジェクトごとに出たり入ったりすることができた。

 スマーは指導や命令はせず、あくまで媒介役に徹した。研究者を集め、場所によっては何らかのアイディアを与え、話し合いを促すところまでがスマーの仕事だ。そこから先はすべて本人たちに任せた。したがって、頻繁に研究者たちとやりとりをしても、自分から話すより、質問し、相手の話をじっくり聞いて、研究者たちを結びつければいいと考えた。

 ある教員は、「スマーが最初に自分の考えを述べることはありませんでした。いつも、みんなの紹介から始めます」といっている。また、ある同僚はスマーを「点と点を結ぶ達人」と評している。スマーがそういう役割を人一倍みごとに果たせたのは、深い科学の知識と他分野に対する興味を持ち、様々な分野の専門家たちに敬意をもって接することができたからだった。