コミュニティー意識を育む

 スマーたちが望んだ施設「未来の患者」とは、CaLit2の取り組みの一つで、総務部長のジェリー・シーハンによれば、コンピュータ科学者、臨床研究者、医師、それに患者とともに、「健康に関する理解を科学的に深めるため、診療記録や患者自身による症状の記録、臨床検査、ゲノム及び細菌叢データといったビックデータを、どのように活用すればよいか」を探るプロジェクトである。

 ここでは、CaLit2で開発されたソフトウェアを使って、研究者の部屋の壁いっぱいのサイズのディスプレイに、患者の腸内細菌や、バイオマーカーなどのデータを映し出す試みが行われている。その狙いは、巨大なディスプレイに表示されることで、健康な人と疾患のある人の腸内細菌の違いを視覚的に比較したり、相関関係を見つけたり、将来の研究を推し進める仮説を導き出したりすることにある。

 サンディエゴ校では、サンフランシスコに拠点を置く建築設計事務所NBBJが、CaLit2の要望を踏まえて、六階建て、グロス面積およそ23,000㎡の研究棟(のちの「アトキンソンホール」)を設計した。内部は壁や部屋が少ない開放的な空間で、研究者たちがスペースを共有できた。オフィスの備品は、様々な人数のチームに合わせて、自由自在に移動できるものが選ばれた。アーバイン校のキャンパスにも同様の研究棟が作られた。

 CaLit2は、プロジェクトの参加者に研究や実験のスペースを提供したが、研究者や部門にひとつのスペースが永続的に割り当てられることはなかった。CaLit2は様々な部門の研究者が集まるプロジェクトの拠点(ハブ)として設立された機関だった。研究者たちは、無菌室やフォトニクス(光子)の実験室など、専門的な設備も共有できる。

 そのような共有スペースを築くことは必ずしも容易ではなかったし、大学では一般的でもなかった。例えば、サンディエゴ校の無菌室「ナノスリー」は、ナノスケール研究では同校ではじめての共有設備で、三分野(ナノ科学、ナノ工学、ナノ医療)が共同で利用した。「CaLit2のサンディエゴ部門にとって、ナノスリーの設置は文化的な一大進歩でした」とスマーは言う。

 「この設置をめぐっては、CaLit2の首脳陣が学内の古い文化を打破しなくてはなりませんでした。無菌室はそれまで研究者や学部単位で、別々に利用されるのが慣例になっていたからです。サンディエゴ校の部長はその慣例に逆らって、研究者たちに設備を共有するように呼びかけました」。その結果誕生したのが、部門ごとに自前で持つよりはるかに設備の充実した実験室だった。この実験室は、交流やコラボレーションを促進し、コミュニティー意識を育むうえで役に立った。