著者たちの調査の中で、イノベーションの導き方が、将来どのように変わっていくかを示唆する事例として、もう一つ上げているのが、世界的な製薬会社ファイザーの法務部長エイミー・シャルマンが行った「法律事務所のネットワークPLA」である。製薬業界は科学、技術、規制それぞれの面で刷新をする必要があり、法務部門を再編することにした。
ファイザー・リーガル・アライアンス(PLA)は、ファイザーの法律業務を請け負う法律事務所19社からなる生態系である。その最大の特徴は、法律事務所への支払いを定額制にし、ほとんど不可侵とされていた従来の時間制を廃止したことにある。シャルマンは法務のコラボレーションにも新しい手法が必要だと考え、外部の法律事務所に対して、社内の弁護士との合同チームで仕事をしてほしいと要望した。
法律業務が複雑化し、複数の司法管轄区域に跨るようになるにつれ、法律事務所間の必要性は増す一方だった。時間制の弁護士費用に基づいた「業務は各法律事務所単独で」という古いビジネスモデルでは、もはやクライアントに最高の法務サービスを提供することはできなくなっていた。ファイザーのような企業には全国的なネットワークが欠かせない。
特に爆発的な売り上げをもたらす大型新薬(ブロックバスター)は、全国何万もの司法管轄区域で、何千もの訴訟を起こされる可能性があった。訴訟では、高度な専門知識と、法律面及び科学面の徹底的な調査が必要になる。そこで要求される専門知識は一つの法律事務所では到底対応しきれないほど難しいものであるが、制度の壁が一層困難にしていた。
すなわち、訴訟はローカルなものであり、ある州の法律顧問を別の州の法廷に送り込んで、そこで判事や陪審員の前で陳述させるわけにはいかなかった。そういうことをすれば、はじめから疑いの目で見られたからである。したがってファイザーは、法律問題に対処するため、全国各地の法律事務所と提携してネットワークを構築しなくてはならなかった。
ネットワークのなかの複数の法律事務所がチームを組んで、訴訟に挑めるようになれば、情報、専門知識、調査を共有することは、各法律事務所にとっても効率がいい。長期的にはファイザーと様々な法律事務所との関係も深まるだろう。そうしたコミュニティーがあれば、連携する一流の法律事務所の集団の中から、最も相応しい弁護士を見つけられる。