イノベーションの生態系を育てる

 著者たちが本書で明らかにしたのは、イノベーションは計画的に生み出せるものでもなければ、部下に命じて生み出せるものでもないということであった。しかし、イノベーションのための組織を築くことはできる。ということは、イノベーションを導くことは、そうした組織を築くことに他ならないということが、一つの結論であると解釈できそうだ。

 それはつまり、コラボレーションと、発見型の学習と、統合的な決定を通じて、個々の天才の一片から一つの集合型天才を創り出せる組織を築くということである。そのためには、リーダーは二つの課題に向き合わなくてはならない。第一は、労多いイノベーションに取り組もうとする意欲が引き出される場をつくることだか、そこには必ず障碍が生じる。

 つまり、イノベーションに至るまでの過程は楽ではなく、克服しなければならないパラドックス(個人と集団、支持と衝突、学習と成果、即興と構造、今季と切迫感)がともなう。精神的な重圧を乗り越えて、イノベーションを成し遂げようする気持ちを起こさせるには、目的と価値観と参加規則によって結ばれたコミュニティーを築くことが必要である。

 第二には、メンバーが労多いイノベーションに取り組める組織を築くことである。そのためには創造的な問題解決の土台となる三つの組織能力(創造的な摩擦、創造的敏速さ、創造的な解決)を組織に持たせなければならない。もちろんこれは簡単なことではないが、実行すれば必ず効果があり、画期的なイノベーションを何度も繰り返し生み出せるだろう。

 しかし、現代の課題の多くは、あまりにも大きく、かつ複雑すぎて、既存の組織の枠組みや従来の知識体系ではとらえきれない。これらの問題を解決するためには、様々な分野の知識や視点を取り入れることが必要となる。そこで求められるのが、従来の境界線(学問、企業、公的機関、政府、国家など)に縛られない新しいイノベーションの方法である。

 この本の著者たちは、これを創造的な生態系と呼び、企業間や産業分野間の垣根を取り払ったオープンイノベーションが必要であと提言している。近年はこの方法を試す企業が相次いでおり、自社の内外にある洞察や知識の源泉を活用するのがその狙いだという。最近の問題の規模や複雑さ、影響範囲を考えると、これらの取り組みは間違いなく拡大する。