前者について、「新しくて有益なものを熱心に創り出そうとしてくれるメンバーやチームばかりならば苦労はないが、現実はそう甘くない。イノベーションの土台となる多様性や、イノベーションについて回る意見の対立、試行錯誤をする上で必要な粘り強さ、すぐに選択肢を絞り込んでしまわない勇気」などがイノベーションの過程には欠かせないからだ。
しかし、現実にはイノベーションは厄介なことだとか、精神的にきついことだとか場合によっては不自然なことだとか感じてしまう。そこで、リーダーは目的、価値観、参加規則のもとにメンバーを団結させることで、いかにイノベーションの妨げになる要素を克服するかが課題である。つまり、この課題を克服できるような組織を築くことが役割である。
後者の実現の鍵を握るのは三つの要素である。それは、「コラボレーション」「発見型の学習」「統合的な決定」の三つである。これらの要素は、既に研究されていることであるが、これまでばらばらばら別々に扱われるのが普通であったが、本書では各要素に必要な組織能力にも注意し、有能なリーダーがその能力をどう高めるかを具体的に明らかにしている。
コラボレーションには「創造的な摩擦」が、発見型学習には「創造的敏速さ」が、統合的な決定には「創造的解決」が必要になるが、これらの能力を身につけ、発揮し、維持することは、いかなる組織においても容易ではない。そのためにはイノベーションの過程で必ず生じる緊張やパラドックスに、つねに対処できるリーダーが求められることになる。
さらに、未来のイノベーションを展望すると、近年、急速に広まりつつあるイノベーションの潮流として、新しいものを生み出すという目的のもと、全く異なる企業や競合する企業同士が協力し合う「イノベーションの生態系」がある。ここでは、ひとつの企業内ですら難しいイノベーションへの取り組みは、極めて難しい舵取役が求められるはずである。