「ポジショニング」で信頼を勝ち取る

 ポジショニングとは、置かれている環境の中で、目標達成に向けた行動をとるために、最も相応しい立ち位置を決めることである。変革型リーダーは、再設定されたビジョンを達成するためロードマップ(戦略)を明示し、フォロワーの協働意識を高めるよう働きかけなければならない。そのためにリーダーは自らの立ち位置を明確にしなければならない。

 ビジョンはそう楽々と達成されるものではないから、現状とあるべき姿とのギャップをどのようにして埋めるかという戦略がなければ、絵に描いた餅にすぐない。リーダーが立ち位置を明確にするとともに、戦略を示すことで、フォロワーはその実現可能性や達成した場合の充実感がイメージできれば、自らチャレンジする意欲もわいてくるというものだ。

 どんなに崇高なビジョンを設定したとしても、そこに至る道筋が見えなければ、期待よりも徒労に終わったときの敗北感が脳裏をかすめ、挑戦意欲が薄れてしまうというのは、全ての人に共通していることである。それゆえ、リーダーは自らの立ち位置を明らかにし、不退転の決意で挑むことを表明しなければ、単なるお題目に終わってしまうことになる。

 ビジョンとポジショニングを明確に示し、フォロワーの心を動かした例として挙げられるのは、宅急便の生みの親として知られるヤマト運輸の小倉昌男である。長距離トラック輸送で他社に遅れをとり、窮地に立たされた大和運輸(現ヤマト運輸)は、当時、郵便小包が独占していた個別宅配事業を周囲の反対を押し切り、立ち上げたことは有名である。

 個別宅配事業を中核に据えるというビジョンを実現するために、当時の取引先との契約を打ち切り、退路を断ちきって個別宅配事業を推し進めた。これを実現するためには、政府の許認可や配送ネットワーク網の構築などかなり高いハードルを越える必要があったが、小倉は自らのポジションを変えることなく、不退転の決意で信念を貫き通したのである。

 その姿勢が、やがて社員を動かし、政府を動かし、顧客を動かすことに繫がり、今日の宅配事業につながったわけである。「ポジショニング」で信頼を勝ち取るとはこうした意味である。つまり、道筋の見えないビジョンを掲げ、独善的な自説を振り回すだけでは、フォロワーの心には決して届かないため、強い心で結ばれた変革型組織は根づくはずがない。