あらゆる方法で「意味」伝える

 色紙に書いた経営理念を額縁に入れ、応接室などに飾っているのをよく見かける。その内容は確かに崇高な理念ではあるが、どうも経営者の人格とはかけ離れている感じがすることもしばしばある。それはともかく、ビジョンは使命や経営理念を翻訳して具体化したものであるとすれば、リーダーはその意味するところを組織メンバーに伝える責務がある。

 自分の言葉で経営理念も語らず、ビジョンも明確に示さなければ、フォロワーに達成意欲が湧くはずがない。創業者が敷いたレールを忠実にひた走るだけで、将来の地位や生活の安全が保障されていた時代はともかく、現在のように、長年にわたって積み上げてきた技術やノウハウが、一瞬にして陳腐化してしまう環境下ではビジョン共有が不可欠である。

 どんなに優れたビジョンを設定したとしても、その背後にある経営理念との整合性を未来思考で語らなければ、フォロワーに変革を促す原動力にはならない。変革型リーダーは、再設定したビジョンを「絵に描いた餅」にならないようにするためには、粘り強いコミュニケーションが必要である。つまり、リーダーが発信するメッセージが重要な意味を持つ。

 そのメッセージとは、当然抽象的なものではなく、短いフレーズで、しかも聞き手の心に響くものでなければならない。その言葉に感銘を受け共感できれば、フォロワーはこれをもとに自らの行動規範に翻訳し、組織の変革に立ち向かう意識が高まることになる。ただし、それは単なるお題目や他人の受け売りであってはならないことは言うまでもない。

 すなわち、短いキャチフレーズの中に、ビジョン設定の理由が込められていること、そして、その言葉を裏づける行動が伴っていることが必須の条件であり、リーダー自らが変革の実践者であることをフォロワーに示すことである。組織変革を謳いながら、遅々として変革が進まない組織のリーダーは、フォロワーにだけ変革を求めているケースが多い。

 特に、ビジネスモデルの開発が望まれる組織の場合、リーダーは組織の変革をことあるごとに口にするが、自分自身は変革を実践しているという前提でフォロワーに変革を求めているが、新しいビジョンを打ち出した根拠も不明確であり、組織に変革を促す原動力には程遠いものである。インパクトのある言葉を裏づける「率先垂範の姿勢」が求められる。