異業種間の競争

 消費種のニーズは元々不安定なものである。例えば、バブル期には、将来はマイホームをと思い、住宅ローンを組むときの頭金として貯蓄してきたサラリーマンが、あまりにも激しい不動産の高騰に翻弄され、折角ためた頭金を住宅取得以外の買い物に向けるという現象が見られた。この場合の住宅メーカーの競争相手は、最早同業者ではなくなっている。

 ほくそ笑んでいるのは、自動車業界かも知れないし、旅行業界かも知れない。ただし、この場合は業界や市場の枠組みが変わったわけではないので、ビジネスモデルを変革する動機にはつながらない。ところが、今起こっている変化は、従来の枠組みであるバリューチェーンの秩序を改善するだけでは、到底対応できない新業態が登場していることである。

 もっとも身近な例はカメラ、フィルム業界の変化である。写真業界のバリューチェーンは、商品開発→原料調達→製造→販売→物流で、記録媒体はフィルであり、カメラで撮影し、現像所で現像・焼き付けをして、保存・鑑賞用のアルバムに収めるという流れになっていて、夫々のパートを受け持つ業界があり、消費者もこれを常識として受け入れてきた。

 ところが、技術革新によりこの流れが一変してしまった。まず、フィルムメーカーがレンズ付きフィルムを発売し、カメラメーカーの市場を侵食しはじめ、次にミニラボが登場すると街のDPEショップで簡単に現像や焼き付けができるようになり、現像所のビジネスに大きな打撃を与えた。それに追い打ちをかける形で、デジタルカメラが登場したのだ。

 こうした一連の流れは、写真業界に革命的な変貌を迫り、フィルムが不要になってきたため、コダックは倒産に追い込まれ、コニカもカメラ事業から撤退を余儀なくされた。さらに、プリンターを使って簡単に焼き付けができるようになると同時に、デジタル化されパソコンなどに保存できることで、撮影した写真を全てプリントする必要さえなくなった。

 そして現在はスマホの時代である。スマホのカメラ機能は日進月歩で進化し、今やデジカメに勝るとも劣らない高性能である。このように、業界の常識や企業の常識、消費者の常識があっという間に覆される時代が到来した。情報の非対称性を武器に築き上げてきた業界の枠組みに風穴を開ける異業種が参入し、しかもその異業種同士が熾烈に戦っている。