同じ土俵では戦わない

 競争戦略といえば、同じ市場で同じ戦略により競争することを想起する。一方、リーダー企業とは一線を画し、棲み分けや協調することに活路を見出そうとするのが、競争回避戦略である。すなわち、競争回避戦略とは、リーダー企業との競争を意識的に避けることで、リーダー企業の同質化戦略をかわすという意味で、「競争回避戦略」と呼ぶに過ぎない。

しかし、見方を変えれば、競争回避戦略とは、コモディティ化した商品やサービス市場において、消耗戦になれば結果が見えているので、安易な製品開発や低価格競争は避けなければならないという下位企業の内部事情によるものであり、本音でいえば、勝てる見込みがあるならば、敢えて競争回避戦略を選択する必要性も薄れることになるかもしれない。

このように考えると、リーダー企業と競争しないということは、リーダーの力を活用あるいは逆利用して、自社に対する風当たりを防ぐことで、表面的には戦わない形にはなっているが、リーダー企業の感情を逆なでしたり、場合によっては懐に飛び込んで、自社の存在感を誇示するわけであるから、やはり変則的ではあるが競争の一形態とも解釈できる。

いずれにしても、競争のない安定した市場が長続きする保証はないことを思うと、下位企業にも付け入るすきは必ずあるはずである。その場合、新たな競争戦略が必要なるわけであるが、その場合の着眼点は、競争の土俵を変えて、それまで有利であった同質の戦略グループをあわてさせる。そして、できればその新しい土俵に上がることを断念させられれば、戦わずして勝つことになるので、これ以上の戦略はないということになるであろう。

また、戦う土俵は旧来と同じでも、従来と異なった機能をもつプレィヤーを登場させることでも、同じような効果が見込めるし、長年の習慣などによりコーディネーションされていたルールを変えることで、競合企業の戦力を削ぐという戦略も考えられる。ただし、これらの戦略は複数の要素を組み合わせることでより強固なものに仕立てる必要がある。

このようにして、土俵を変え、競争相手などのプレイヤーを変え、ルールを変えることで、リーダー企業の同質化は避けられたとしても、今度は異業種の参入により、自社の経営資源を負債化させる戦略グループが登場する。特に技術革新の進歩がめまぐるしい環境下にあっては、消費者の多様な価値観や優先順位の移動にも気配りする姿勢も問われよう。