競争回避戦略の課題

 本稿の冒頭で、競争のない社会は疲弊すると述べたが、ここで取り上げた競争回避戦略でいう「戦略」とは、勝てる見込みのない戦略は採るべきではないことを前提としてものである。つまり、無益な消耗戦を避ける戦略であり、既存市場における自社のポジションや経営資源の質量により、比較的「有利に戦える戦略」を模索することを目的にしてきた。

 たしかに、方向としては、棲み分けするか、共生するかしかないことは誰にでも理解できる。また、棲み分けるには、現在の戦略グループでは手薄になっている部分を狙うニッチ戦略と、リーダー企業の経営資源を負債化させる戦略をみつけ、大企業が得意とする同質化をかわす不協和戦略が有効である。そして、共生するには協調するしか選択肢はない。

 いずれの戦略も、経営資源の脆弱な下位企業にとっては難題であることは確かだが、翻って考えてみると、ニッチ戦略により活路を見出し、成長している中小企業は確実に存在している。ただ、問題なのは多くの企業にとって、ニッチ戦略は目的ではなく手段になっていることである。つまり、いつかはリーダーにという思いがあるところに危うさがある。

 不協和戦略にしても、環境変化が激しい現代においては、この戦略が功を奏してリーダー企業の経営資源が負債化したとしても、そうした状況が未来永劫続くという保証はない。場合によっては、せっかく築いた不協和戦略の枠組みが負債化の危機に曝される可能性も孕んでいる。不協和戦略は、そうしたオンとオフの落差が激しい戦略であるともいえる。

 もう一つの柱である協調戦略は、何を持って他社と協調できるコア・コンピタンスとするかを特定するのが難しい。企業は経営革新を志向する場合、決まって最初に行うのがSWOT分析である。しかし、この分析は、定量的な分析ではないので、どうしても「手前みそ」の評価に陥りやすいため、下手をするとリーダー企業の餌食になる危険性がある。

 最後に、これらの戦略に共通して言えることは、リーダー企業を始め、競合他社の経営資源と戦略意思決定の可能性を見積もることが難しいことである。すなわち、相手が自社の戦略を認める可能性は、必ずしも合理的な経済計算を根拠に決定されるとは限らいということである。つまり、もしも競合相手が別の戦略に転換すれば自社の資産が負債化する。