不協和戦略の勘所

 不協和戦略は、本来弱みであるはずの経営資源の脆弱さを強みに変える逆転の発想が肝である。この発想を説明するとき登場するのが、SWOT分析である。この分析は、自社の経営資源の強みと弱み、市場の機会と脅威をクロスさせて、自社の強みを市場の機会に対応させることを基本にしているが、変則的に弱みを強みに見立て特定市場に対応させる。

 なぜこのような発想が生まれたかは定かではないが、一つのよりどころとしては、SWOT分析を実行してみれば解るように、市場の機会に対応した強みが見つかることは稀であり、しかも、こうした組み合わせでは、リーダー企業と戦うことは、「飛んで火にいる夏の虫」になる可能性が大である。こうした現実に突き当たった時に逆転の発想が生まれる。

 つまり、不協和戦略は、リーダー企業が強みとしているものを弱みにしてしまうという発想であるから、必然的に、自社の弱みが強みにならなければ始まらないことになる。このように考えると、不協和戦略は、技術革新により頻繁にシェアが入れ替わる業界よりも、成熟化してシェアが固定化している業界の方が有効であるということにも気がつくはずだ。

その第一の理由は、成熟化した業界におけるリーダー企業には、長年積み上げてきたインフラやノウハウなどが重層的に蓄積されていて固定化しているからである。第二に、不協和戦略は、前述のように、「企業資産の負債化」、「市場資産の負債化」、「論理の自縛化」、「事業の共食化」というリーダー企業のアケレス腱が複数存在するので付け入る隙がある。

 さらには、リーダー企業ゆえに、フルライン政策をとらざるを得ないという弱みもある。もちろん、本来、フルライン政策自体は強みであるが、リーダーであるがゆえにラインを間引きできないといところが弱みである。業界大手の日本生命に対して、ライフネット生命が、ネット販売により、大手の持つ巨大な資産を負債化してしまったのがその例である。

 こうした業界においての儲ける仕組みは、これまで情報の非対称性を武器に存立基盤を勝ち取ってきた。特に、生命保険などの料金設定はユーザーには解り難く、殆どが保険会社の設定を受け入れざるを得なかった。こうしたところに、不協和戦略を仕掛けるチャンスを見つけ出すヒントが隠されている。その弱みの一つを負債化させることが勘所である。