不協和戦略の類型

 企業の保有する資産には2種類あり、一つは、企業側に蓄積された資金や設備、ノウハウなどの「企業資産」であり、もう一つは、顧客側に蓄積された製品、ソフトウエア、ブランド、企業イメージなどの「市場資産」である。これらの資産は、同質化された市場を前提にしたものであり、下位企業のニッチ戦略によって、負債化されてしまうことがある。

 リーダー企業は、この2つの資産が負債化すること恐れて、同質化を仕掛けることは出来るが、うっかり手を出せない場合と、元々同質化を好まない場合がある。この4つを組み合わせると、「企業資産の負債化」、「市場資産の負債化」、「論理の自縛化」、「事業の共食化」というリーダー企業のアケレス腱が見えてくる。ここが下位企業の狙い目なのである。

 企業資産の負債化は、これまで積み上げてきた資産を容易に組み替えることが難しい経営資源(ヒト、モノ、カネ、情報)や系列店などの店舗網、営業職員などが価値を持たなくなるような戦略を打ち出すことによって、リーダー企業が同質化できない状況に追い込む。営業職員を持たないインターネット専業生保のライフネット生命などがその例である。

 市場資産の負債化は、リーダー企業の製品やサービスを購入し続けてきたユーザーに蓄積されてきた製品、ソフトウエア、パーツ、ブランドイメージといった組み換えの難しい資産が、競争上の価値を持たなくなる戦略であり、スマホによる購買代金の決済が可能になったことにより、流通業が保有していたレジスターやカードリーダーが不必要になった。

 論理の自縛化の例として挙げられるのはリブセンスである。同社が属する市場においては、リクルートがリーダー企業である。アルバイト求人や転職情報をウエブ上に掲載するという手法は同じであるが、リブセンスは掲載料を無料とし、企業が採用できた段階で、成功報酬として利用料を課金する。リーダー企業はこのモデルに追従することは出来ない。

 事業の共食化とは、リーダー企業の強みとしてきた製品・サービスと共食い関係にある製品・サービスを出すことで、リーダー企業は追従すべきかどうか悩ませる戦略である。この例は、簡易型フィットネス・ジムのカーブスに見ることができる。リーダー企業は保有する膨大な設備(浴室、プールなど)が無駄になるため、追従できない状態になった。