不協和戦略

 リーダー企業が志向する戦略は、周辺需要を取り込み拡大すること、下位企業の戦略を同質化すること、価格競争に陥らないようにコントロールすること、最適なシェアを維持することである。経営資源の脆弱な下位企業から攻撃を受けても、リーダー企業は同質化政策で対応できれば、質量に勝る経営資源を有効に活用でき、容易にコントロールできる。

 ということは、下位企業の側から見れば、周辺需要の拡大や非価格競争、最適シェアの維持などは、同質化された市場においては、リーダー企業の独壇場ということになるので、棲み分け戦略をとるとすれば、ニッチ戦略か不協和戦略をとる以外にない。ニッチ戦略については、これまで述べたとおりであるが、不況和戦略とはどういうものなのだろうか。

 ニッチ戦略の場合は、リーダー企業の巨大な経営資源の稼働を抑え込まれることで、過大な固定費が回収できないと判断させる戦略である。これに対して、不協和戦略は、同質化戦略を仕掛けると自己矛盾に陥るなどの不協和が生じてしまい、これまでの戦略を全て変更してまで、リスクを冒すことは出来ないという結論に追い込むための戦略である。

 リーダー企業が同質化を考える場合、同質化「したい」、「したくない」と、同質化「できる」、「できない」という4つの組み合わせによって判断される。1)同質化「したい」と「できる」の組み合わせでは、同質化を仕掛ける。「したい」と「できない」や「したくない」と「できる」の組み合わせでは、不協和が発生するので、同質化を断念せざるを得ない。

また、「したくない」と「できない」の組み合わせは論外と考えて差し支えないであろう。ここで、不協和が発生する状況を整理してみると、リーダー企業は、これまで蓄積された資産を失うかもしれない戦略には踏み切れない。戦略を変更することで積み上げてきた資産が災いする。膨大な資産が最大の負債になる。これがリーダー企業のアケレス腱である。

例えば、全国に巨大な店舗を設け、品揃えや品質の面でも絶対的に優位にあったデパートは、カタログ販売やネット通販に踏み切る力はあるが、こうした戦略に踏み切れば、店舗販売に多大な影響を及ぼす虞があるため、積極的に戦略を転換することを躊躇する。このように、技術革新が進展すると、これまでの参入障壁が、逆の防護壁と化してしまう。