質的経営資源の脆弱な企業のニッチ戦略

 経営資源が低い下位企業にとっても、規模が小さい市場ではニッチ戦略を仕掛けるのは難しい。何故ならば、質的経営資源の脆弱な下位企業は、リーダー企業と一線を画す戦略を打ち出すことができないからである。例えば、新製品を開発したとしても、すぐにリーダー企業に同質化されてしまい、リーダー企業の露払いをしたに過ぎなくなるからである。

 したがって、このゾーンでのニッチ戦略は、赤字を覚悟で低価格戦略を展開するしかないので意味がない。一方、質的経営資源の脆弱な下位企業でも、市場の設定の仕方によっては、採算の見込める分野においては、工夫次第ではリーダー企業が同質化することが難しい(固定費を回収できない)状態を創り出すことで、リーダーの同質化を防止できる。

 例えば、空間的・時間的に限定された市場である。空間的市場とは、山間地の小規模な集落とか、離島などである。時間的とは、限られた季節や1日のうちでも繁閑の差が激しく、平準化が難しい市場などが考えられる。こうした市場においては、高コスト体質のリーダー企業にとっては、稼働率が低くいため、同質化戦略を仕掛けるだけの魅力に乏しい。

 また、市場が成熟期を過ぎ衰退期に入っている市場では、リーダー企業は、さらなる投資は避け、余剰資源を新たな市場開発に向ける戦略をとる。しかし、経営資源の脆弱な下位企業にとって、リーダー企業が撤退した場合に残された需要に向かって、丁寧にニッチ戦略を展開することが考えられる。フォロワー企業がニッチ企業に転身することもある。

 さらに、全体市場が衰退しているが、限定的な数量は継続して発生するという場合もある。例えば、ファンヒーターのダイニチなどは、リーダー企業が撤退したのちも、一貫生産を貫き、限定的ではあるが安定した需要に応えている。その結果、大きなシェアを獲得し、リーダー企業の同質化とは無縁の存在として、トップ企業の座を確立するに至った。

 このように、特定のニーズは、全体市場の衰退とは裏腹に、過去の意思決定によって、ある製品を使い続けなければならない場合に生じるものである。例えば、「計算尺」などという製品は、最早死語になりつつあるが、いまだにこれを重宝にしている職業(職務)があり、それらの人々にとっては、製造を中止されては困る大事な機器となっているという。