量と質の面から規定するニッチ戦略

  ニッチ企業の採るべき戦略は、リーダー企業の参入を阻むことにある。それには、単に質的資源を活用するだけではなく、市場規模を量的な面でコントロールすることも大きな戦略の柱となる。昔の諺に「大は小を兼ねる」というのがあるが、一方、「大男総身に智慧が回りかね」というのもあるくらいだから、お互いに得手不得手があるということである。

 大きいことが絶対有利を目されている大相撲の世界でも、小兵力士が押し込まれ、徳俵に足がかかると反撃に転じ、大男をうっちゃりで制してしまう。この場合、大きな土俵は小さな戦場になってしまい、大型力士の有り余る体力が活用できなくなる。このように大向こうを唸らす痛快な場面は産業界でもしばしばお目にかかるし、これかにも期待できる。

 その余地を探るために、「質の高低」と「量の高低」という2つの軸により、ニッチ企業がとり得る戦略を考えてみると、一般的には、リーダー企業は、総合力では優位にあるとみられるが、量的にはそうであるとしても、質の面では、全面的に有意であるとは限らないから、質的な面ではその優位性を、量的な面では小さいことを逆利用できると思われる。

 そこで、質の高低を縦軸に、量の高低を横軸にとると、ニッチ企業は、1)質的に優位であり、リーダー企業の固定費の高さを狙う。2) 質的に優位であり、市場そのもののサイズが限定的で、リーダー企業にはもともと魅力がない市場を狙う。3)質的にも量的にも低い分野なので、とりあえずは避ける。4)質的には低いが、リーダー企業の動きを封じ込められる。

 実はこうしたニッチ戦略をとっている中小企業は昔から存在している。というより、大企業の同質化戦略では踏み潰すことのできない領域があるからこそ、今日もなお、中小企業が存在し続けているというべきかもしれない。例えば、ここで示した軸を基準にした第一象限に属する企業は、高級オーダーメードの限定生産などで、参入障壁を築いている。

 また、第二象限に属する企業は、優れた技術力を持っていることは同じであっても、リーダー企業から見て、魅力に乏しい事業(例えば、季節や自然現象に左右される不安定な市場)に特化し、リレーションマーケティングを実践している。本来は、このゾーンこそ中小企業の存立基盤なのであるが、規模の拡大を目指したため、大企業に屈してしまった。