長期のトレンドで見れば、労働力不足はすでに始まっており、外国人労働者の活用が議論されているなか、高齢者の活用という選択肢が残っていることに目を向けるべきである。高年齢者雇用安定法の改正により、65歳まで定年を延長するか、何らかの形で再雇用を義務づけられているが、企業はこれまであまり積極的には取り組んで来なかった傾向がある。
いまこそ、高齢者が参画できる新しい社会モデル、企業モデルについて議論し、社会的コストと福祉のバランスを目指すべきである。従来は、企業と消費者という関係、サービス提供者と需要者という一方通行の関係にあったが、元々、純粋な生産者、消費者という存在があるわけではなく、誰もが生産者もあり、消費者でもあるという位置関係にある。
IT化の進展は、この関係を再確認する契機となったこともあり、企業と消費者の双方向コミュニケーションが、製品開発やマーケティングにおいても重要な意味を持つようになってきている。こうした観点から、労働市場を俯瞰すると、若年労働者の職場を奪うどころか、むしろ、負担を軽減し生産性を押し上げる効果の方がはるかに大きいはずでる。
従来のように、若年者の雇用と高齢者の再雇用というトレードオフの関係で労働需給関係を捉えるのではなく、補完的な役割を担ってもらえる仕事は沢山ある。例えば、企業の商品開発に高齢者が参加する。シャドー・モニターとなり近隣の飲食店の評価を行う。あるいは、通販カタログの受注を請け負う。虚弱高齢者のサービス・コンシェルジェを行う。
その他にも、弁当の宅配や要介護者に対する看護と介護のコーディネート役を担ってもらう。高齢者が起業を果たすための支援を行う。高齢者のためのフランチャイズビジネスを展開する。これらは、ほんの一例に過ぎないが、いずれも、若年者の雇用機会を妨げるものではなく、むしろ、高齢者ならではの役割を果たすことにより社会に潤いをもたらす。