居場所の確保

  40年以上も会社に勤め、家庭サービスを犠牲にしてきたばかりか、自分の趣味を育てる時間さえも捧げてきた生活パターンが、定年により10時間近くの自由時間が突然手に入ることになる。時間に拘束されていた時は、自由に使える時間が欲しいと思っていたのに、いざ、その時間を手に入れると、それをどのように活用したらよいのか戸惑ってしまう。

 最近特に目につくのは、大型のショッピングモールでたむろしている高齢者である。これらの高齢者がすべて定年退職者とは限らないかもしれないが、明らかに、最近まで現役で働いていたと解るような人も多く見かける。関係者に聞いてみると、「食事をする店が多いこと」「冷暖房が完備していること」「雑踏の中に身を置きたいこと」などが理由だとか。

 表面的な理由としては解るような気もするが、やはり、「居場所がない」というのが本音のような気がする。定年退職した男性を評して、「ぬれ落ち葉」などと揶揄した時代はともかく、戦後生まれの団塊世代は、戦前、戦中生まれの人々とは明らかにライフスタイルが異なる。こうした元気な高齢者に、消費のけん引役を担ってもらうためにはどうすべきか。

 高齢者をたんなる消費者と捉えるのではなく、彼らが社会的役割を果たしつつ、生き甲斐を感じられるような仕組みをつくることが、これからの消費市場を左右する。それには、自社の商品やサービスの販売システムの中にメンバーとして加わってもらうという視点も重要である。例えば、弁当の製造や配送作業を高齢者に任せるなども考えられるであろう。

 実は、このシステムを十数年前に、あるコンビニエンスストアに提案したことがある。その時は、システム上の制約で実現しなかったので、別の方法を採用せざるを得なかったが、ニーズがあることがわかっていながら、「人手不足」で実施できない。一方で、「働く場所がない」という現状は、店側にとっても、高齢者にとっても大きな機会損失である。

 大型の商業施設などでは、こうした試みは徐々に増えつつある。しかし、高齢者の本音は、「働く場所」や「寛ぐ場所」などをストレート探しているわけではない。彼らにとって本当に居心地のいい場所とは、物理的な場所ではなく、相応しいポジションで自分らしく輝くことなのできる場所なのであり、生活防衛のためだけに「働く場所」のことではない。