人的対応の重要性

  高齢者に限らず、商品やサービスを購入する目的は、それを使用・消費することにより得られる効用に期待するからである。この場合の効用とは付加価値のことであるが、付加価値は総付加価値と純付加価値に分けられ、総付加価値-総コスト=純付加価値という関係式で考えると、消費者が購買を決定するのは、純付加価値が高いと判断するからである。

 高齢者は、人生経験が豊富な分だけ、総付加価値=購入価格であることを熟知しているので、総コスト(生産コスト+流通コスト+管理コスト+利益)が妥当かどうかに関心が強い。所得の源泉が年金などに限られている場合は、特に高いものを買わされたという後悔をしたくないので、納得して購買に踏み切るまでには、現役時代よりも時間がかかる。

 高齢者の購買決定の心理的プロセスは、情報不足と生活防衛意識が相乗的に作用し、論理的に阻害要因を取り除くだけでは解決できない。したがって、セールスマンや販売員に「売らんかなの姿勢」が感じられれば、どんなに説得力があっても、心は凍り付いてしまい、無意識のうちに拒絶反応を起こしてしまう。これを溶かすためには対話するしかない。

 つまり、単なる説得から、高齢者とじっくり対話し、価値観を共有し共感・納得へと導くプロセスを構築するしかない。このようにして、双方向のコミュニケーションが形成されれば、高齢者は、その商品・サービスが自分にとって本当に必要かどうかを判断する客観的価値観に照らし合わせて意思決定できるようになる。それには「人的対応」しかない。

 人的対応には、メールによるやり取りや電話対応なども含まれるが、できれば、直接の会話がベストである。もちろん、取り扱っている商品やサービスによっては、直接的な対応が不可能な場合もある。そうした場合は、パプリシティを活用したり、信頼できるステークホルダー(マスメディアや芸能人、家族や身近な人)などの意見も活用すべきである。

 いずれにしても、高齢者の生活圏でビジネスチャンスが発生することを考えると、高齢者の日常生活の場を広げることが、マーケティングを展開する上で重要な意味を持つことになる。高齢者が集う場所を提供し、生活範囲を拡大することに貢献できれば、それだけ市場も拡大することになるので、社会的コストを如何に負担し合えるかが今後の鍵である。