なじみ感の醸成

  長年馴染んだ商品や店にはそれなりの魅力があるはずだが、その魅力やメリットを改めて問われると、必ずしも明確に答えることができない場合もある。高齢者に限らず、「なじみ」を大事にすることは、若者にも共通している。しかし、高齢者はその商品や店に馴染んでいるということは、それなりの歴史があると考えれば、なじみ感も強くて当然である。

 なじむという言葉は、実に広い意味を持っている。「よくなれて親しくなる」「ひとつにとけ合いしっくりする」「調和する」などであるが、一方の「なじみ」は、「なれ親しむこと」「そういう人や物」という意味である。つまり、この二つの言葉の関係は、馴染んだ結果、なじみになるということのようであるから、馴染むには少し努力も必要かもしれない。

 例えば、洋服を選ぶ場合、はじめは少し違和感があっても、「そのうち馴染むようになる」などという使われ方をする。すなわち、なじむということは、環境や雰囲気にコーディネートされ、多少の不満があっても、それを受け入れる方がベターだと判断し、あるいは判断せざるを得ない場合もあるが、それが習慣になると、なじみ感に変わってくるのである。

 何らかの理由で、はじめに購入した銘柄の車やⅠT機器などに愛着を感じるようになると、他人からその銘柄をけなされると、まるで自分の事のように怒りだしたりして、そのメーカーの代弁者になってしまうことはよくある。これなどは、一種の"なじみ効果"で、本人にしてみれば、それほど強い「ブランド固執」があるわけでもないこともあり得る。

 高齢者は確かに、新しいことを覚えたり、学んだりすることが次第に億劫になり、今までと変わらない同じことに安心感を覚えるようになるのは確かであるが、高齢者は新しいことに全く興味がわかないということではない。要はむやみに接近し、かゆいところに手が届くようなサービスではなく、適度な距離感を保ちながら緩やかに接近すべきである。

 自分が納得するまである程度時間はかかるが、一旦信頼関係を築いてしまえば、その良好な関係を保とうとする。それには、比較購買のチャンスを広げるアプローチが有効であるが、「価格」ではなく「なじみ」を重視するという態度の背後にある心理は、悩みを解消したいという思いと、新しいものに対する不安が入り混じっていることを知るべきである。