いいものは必ず売れるという誤解

 

 いいものが売れるというのは当然のことのように思われる。しかし、現実に「いいもの」とはどのようなものを指すのかが曖昧であり、作り手の思い込みであることも往々にしてある。商品が消費者や市場から受け入れられる要件は様々であり、ましてや消費者が購買を決定するまでのメカニズムは不透明で、ブラックボックスは未だ解明されていない。

 製品が開発され、商的環境におかれ商品となっても、適正なマーケティングが行われなければ、売上には結びつかないが、それにもまして、革新的な製品として組織から認知されるまでにもかなりの曲折が予想される。それは、一口に言って、組織には建前としては革新を志向しながら、現状の枠組みを維持したいという風土があったりすると拒絶される。

 また、創造性と実用性は相容れないという感覚は、現実にクリエイティブなアイディアをきらうという微妙なバイアスを人の心にかけることがある。こうした潜在意識は、ビジネスモデルの開発や革新的な戦略への転換時においても働くため、組織から認知されるまでには時間がかかる。それは創造性の中に不確実性が潜んでいることへの拒絶反応である。

 本来は、創造性と実用性はあい矛盾するものではないが、従来の路線を変更することへの不安が心をよぎるため、あたかも、実用性の対極にある概念と勘違いしてしまうからではないだろうか。そのため、創造性を嫌うという傾向があるように見えてしまう。いずれにしても、こうしたバイアスがかかると、イノベーションが拒絶されることになるわけだ。

 これが組織の常識となり、社会の常識ともなるため、革新的で創造性にとんだアイディアがストレートに受け入れられないという現象が起こるわけである。このようにして出来上がった社会に疑問を持ちながらも、「作ったもの」を買う立場にある消費者は、この枠組みを受け入れ、あまり矛盾を感じなくなってしまい、不確実なものを排除する姿勢になる。

 このようにコーディネートされた社会において、クリエイティブなものが受け入れられるためには、2つの改革が必要である。一つは、創造的なものを積極的に受け入れられるような組織体制を作ることであり、二つ目は、消費者に正しいメッセージを届けることで、不確実性をできるだけ払拭するようなマーケティング戦略を構築し展開することである。