衝突は創造性を高める

 

 日本人は議論することが苦手である。議論とは異なった意見をぶつけ合うことであるから、ちょっとエスカレートすると議論というより衝突になってしまい、これが高じると派閥などの対立したグループの形成につながりかねない。こうした状況になることを避けるため、リーダーのもとグループの結束を図ることで平穏を保とうとする意識が常にある。

 確かに、対立を避けたいと思うのは人間の常であるが、果たして、表面的な団結が革新性に繋がるかというと、かなり疑問な点も多々ある。現在は、異なる視点を持ち出し、様々な角度から議論をする中で衝突し、評価し、対立した方が、はるかにクリエイティブな結果が得られやすいという意見が支持されている。もちろん、反対意見もあるかもしれない。

 衝突は創造性を高めるという意見を支持する研究者で、カリフォルニア大学バークレー校の心理学教授、チャーラン・ネメスのもとで行われた実験では、3つの異なる状況(何もしない、ブレーンストーミングを行う、議論する)を割り振り、同じ状態を割り振られた被験者をさらにいくつかのチームに分け、共通テーマでアイディアを出してもらった。

 「何もしない」人にはそれ以上の指示を与えず、とにかくアイディアを最大限出してくれとだけ伝えた。「ブレーンストーミングを行う」人々には、アイディアをできるだけたくさんだす。判断は控える、突飛な考えを出す、アイディア同士を組み合わせるというルールを伝え、特に是非を判断したり、批判や議論を加えたりするのは厳に慎むよう指示した。

 最後の「議論する」人々には、ブレーンストーミングのチームと同じ4つのルールを伝えたが一つだけ大きく異なる指示を与えた。それは、判断を控えるのではなく、アイディアがでてくるそばから議論し、判断するようにと言った。結果を集計してみると、結果ははっきりと表れた。一番成績がよかったのは議論したチームで、平均の25%も多かった。

 この傾向は、チームを解散した後まで続いたという。この結果は偶然か、もしくはアメリカ人特有の現象の可能性もあると考え、同じ実験をパリでも行ってみたが、結果は変わらなかったという。衝突を活用したチームは、団結を重視したチームの成績を着実に上回ったわけである。この結果、議論は避けようという従来の常識は誤りだと指摘している。