内因性の動機

 

 人は金銭的インセンティブによってやる気を出せるという側面は確かにある。中小企業の場合でも、任意退職者がその理由としてあげるのは、やはり給料が安いことである。しかし、この理由が主なものだとすると、会社に留まっている従業員は、現在の処遇に満足しているか、あるいは、もっと優遇される職場が見つからないからだということになる。

 賃金や給料は、家族の生活を支える重要な要素であることは間違いないが、金銭的インセンティブによってのみやる気を起こすものでもない。人が意味のある行動を起こすには、動機が必要であり、内因的な動機と外因的な動機に分けられる。内因的動機とは、心の中からわきおこる動機で、ストレスを解消しようとするときに働く外因的動機とは異なる。

 このことについての研究成果は、ハーズバーグの動機づけ衛生要因やマズローの欲求五段階説、マクレガーのX論Y理論などですでに検証済みである。ましてや、クリエイティブな成果を期待するためには、金銭的インセンティブだけでは不十分で、内因的な動機づけが不可欠であるはずだが、いまもって、仕事の質量と報酬のバランスが重視されている。

 その理由は、クリエイティブな仕事といえども、その成果を測る唯一の尺度が金銭であるからである。すなわち、肉体的でルーティーンな仕事でも、ひらめきが必要な創造的なジョブでも、最終的には金銭に換算されて評価が決まる。というより、そうしなければ公平な評価だと誰もが納得しないからである。つまり、社会システムとなって定着している。

 社会システムは長い年月をかけてコーディネートされたものであるから、これを改めようとすると大変な負荷がかかる。したがって、このシステムを無理に改めようとするのではなく、要は、内因性の動機を損なわずにインセンティブと報酬システムを構築すればよいということになる。それには、質の高さを評価する手段として報酬を決めることである。

 その理由は、外因性の動機が必ずしも有害であるとは限らないから、仕事で成果を上げるための内因性の理由と外因性の動機を一致させるように人事制度を設計すればよいというように考えられるからである。例えば、ノーベル賞の賞金が多額なのは、クリエイティブな成果に対する評価の高さを打ち出しているからこそ、研究者は頂点を目指すのである。