専門的知識と創造性の関係

 

 われわれの一般的な常識からすれば、クリエイティブな成果を上げようとすれば、その道の専門家を集めることである。事実、繊維的な発明などは、長年にわたり専門知識を習得した専門家によって成し遂げられていることも事実である。しかし、クリエイティブな成果が、全て専門家あるいはその集団によってのみ、もたらされたものばかりではない。

 ある研究によると、専門知識が増えるにつれて、創造性が低下することがあるという。また、専門外の人々が名案をひらめくことや、素人集団が最高の発明をすることもある。この事実をもって、専門知識がない方がよりひらめき度がたかいと結論づけるのは飛躍しすぎてあるとしても、確かに、専門知識がひらめきにブレーキをかけていることはある。

 専門家は、当然のごとくあらゆる角度からアプローチしてきているわけであるから、素人の単なる思いつきとは比べ物にならないが、同時に、それまでひらめいたアイディアに拘束され、新たに挑むことの無意味さを熟知していると思い込み、新たな発想ができにくくなっている。その点、何の先入観もない素人は、真っ白な気持ちで取組むことができる。

 しかしながら、知識の深さと仕事の質に有意な相関関係がないとはいうものの、専門知識を習得させることが、成果につながる確率が高いと信じているからこそ、企業は教育・訓練を熱心に行っているわけである。つまり、専門的知識と創造性は直接的には、相関関係が薄いといとしても、両者を結びつける第三の因子が介在していると見るべきである。

 これは、裁判員制度の導入や企業における社外取締役制度と似ている。すなわち、専門的知識と柔軟な発想を融合させることで、社会の一般常識との距離を縮めることを狙いとしている。深さをもった専門性と幅広い創造性は、お互い補完関係にあるので、無相関であるのは当然で、この関係を因果関係で説明するのはあまり意味が無いように思われる。

 専門性とは深さであり、創造性は広がりであると考えれば、この2つの要素は無相関の関係にあることになるので、専門知識があって創造力もある人材が存在しても不思議ではないように思われるが、専門性は、長年のキャリアによって蓄積されるものであり、創造力を発揮するのは「若い頭脳」である。やはり「ひらめき」には若い創造力が必要である。