既存のアイディアの組み合わせ(その2)

 

 拡散的思考能力は、創造性を評価するのによく使われている。竹内光准教授の研究チームは、この能力を測定するとともに、被験者にMRIを受けてもらい、拡散テンソル画像法を用いて脳の地図を作成し、灰白質と白質を比較した。脳画像を整理し、創造性の測定値が特に高い人と低い人を比較してみたところ、物理的構造が異なっていることが解った。

 創造性の高い人々は、低い人よりも白質が多かったという。彼らの脳はアイディアや脳の領域をつなぎ合わせ、潜在的にクリエイティブな組み合わせを生み出すのに適した配線になっていた。この研究の結果から、白質が多いから被験者がよりクリエイティブになったのか、被験者が想像力を活用しているから白質が増えたのかの判別まではできなかった。

 同チームのその後研究では、訓練を積むことで脳内の白質を成長させられることが判明した。これらの発見は、創造性を理解する上で大きな意味を持つ。メドニックが創造的思考は既存のアイディアをつなぎ合わせることで機能するという理論を発表してから50年近くたった後、創造的と思われる人々はアイディアをつなぎ合わせるのに適した脳を持っていることが脳画像から判明した。

 さらに興味深いのは、脳の結合組織を成長させ、想像力を伸ばすこともできるらしいということである。発明家やマーケティグ専門家、芸術家は全て既存のアイディアという原材料を使って新しい作品を生み出している。そして、彼らの脳の白質は、常にアイディアをつなげたり、つなぎ直したりしながら価値のある組み合わせを探しているわけである。

 新しいアイディアは、既存のアイディアを組み合わせてできた産物であることは疑う余地はない。しかし、先願者(先発者)が特許を取得すれば、そのアイディアは、事実上オリジナルなものとして認知されるから、我々はそれを全く新しい発明であると誤解してしまう。オリジナルなものであれば、特許権の侵害を巡る争いも劇的に減少する筈である。

 新しいアイディアも既存のアイディアの組み合わせによるものであるとすれば、クリエイターと呼ばれる人の強みは、様々な情報源にアクセスできることということにある。ということは、クリエイティブになれないのは、自分と接点のあるアイディアや素材を簡単に入手できないため、脳の白質を発達させ、灰白質につなげることができないからである。