既存のアイディアの組み合わせ(その1)

 

 心理学者のアレクサンダー・ペインによれば、100年以上も前に新しい創造物は新しい発想ではなく、「既知の要素から新しい組み合わせ」によって生まれると述べている。その数十年後、別の心理学者サーノフ・メドニックは、創造的思考とは、単に「連想的要素を特定の要件、または有用な用途に合致する新しい組み合わせにすること」であると主張した。

 あらゆる創造的ひらめきは、頭の中にある既存の発想をつなぎ合わせる能力から引き出される。そのため、より多くのつながりが作られる人ほどクリエイティブになれるというわけであるが、「問題の必須要素からより多くを連想できる人ほど、クリエイティブな解決策にたどり着く可能性が高い」とメドニックは論じており、「遠隔連想テスト」を開発した。

 このテストは、テレビのクイズ番組にも時々登場する、「複数の単語に共通するものをみつける」というもので、脳の柔軟性が問われるといものであるが、日本古来の「謎かけ」とも共通しているようだ。メドニックは、創造的なことをひらめいたとき、頭の中で何が起こっているのか解明しようとしたが、最近の研究では脳の物理的反応を観察している。

 東北大学認知機能発達寄附研究部門、竹内光准教授の研究チームは、高度な技術を駆使してクリエイターの脳の中を観察した。この研究は、脳は基本的に2種類の組織からできており、一つは灰白色質、もう一つは白質である。灰白質はしわがよったスポンジのような物質で、学校で習ったことから最も大切な思い出まで、すべての知識が保存されている。

 灰白質は人間が思考するときに機能する。一方の白質は、電気信号を伝達するための結合組織で、電話線のようなものだという。白質は異なる事実や記憶をつなげておくための配線である。灰白質が考える対象だとすると、白質は考える方法にあたる。例えば、何かを「忘れた」という場合、その記憶はまだ灰白質の中に残っているが、白質が思考と思考を結びつけたり、情報を呼び出したりするのにてこずったりしているという状態にある。

 一方、何かを「思い出した」という場合は、一般に正しいつながりが見つかったことを意味する。同研究チームのメンバーたちは、クリエイターの脳は文字通りつくりが違うのか、灰白質と白質の構成がほかの人とことなるのかという点に関心をもった。そこで、被験者グループに拡散的思考能力を測定するために作られた一連の課題を試してもらった。