培養期間

 

心理学者のミハイ・チクセントミハイなのどの研究によれば、ひらめきを得る方法について、殆どの人が、準備、培養、ひらめき、評価、精錬の5つの段階からなる共通の創造的プロセスを踏んでいる。これは、アイディアの発想過程の「資料集め、資料を咀嚼する、問題をすべて忘れる、アイディアが浮かんでくる、アイディアの具体化」と酷似している。

創造することもアイディアの発想も「ひらめき」が不可欠の要素であると考えれば、似ているのは当然というべきであるかもしれないが、表現の仕方にはかなりの違いがあるように感じられる。研究者が独自の思考方法によって生み出したものであるから、違うのが当たり前かもしれない。しかし、少し気になるのは、「培養」と「孵化」についてである。

ジェームス・w・ヤングは、その著書「アイディアのつくり方」の中で、第三段階では、「問題を全て忘れる」といっているが、ミハイ・チクセントミハイやポアンカレは、課題をスイッチさせることで、ひらめきが増すといっている。「すべて忘れること」と「心の片隅おいておくこと」とは別の事と考えれば対立する意見であるが、実は同じであるようだ。

すなわち、「すべてを忘れろ」と言われても、問題が重要なモノであれば、全く意識の外に放り出すことは出来ないが、さりとて、常にその問題を引きずっていたのでは、ひらめきの瞬間が訪れない。そこで、一旦別の課題解決に頭を切り替えることにより、アイディアの組み合わせが円滑に進むということのようである。そう考えれば思い当たる気がする。

もちろん、培養期間がひらめきをもたらしたり、創造性を向上させたりする理由には様々な説がある。頭を休められるからだという説のほか、特に支持されている説の一つに、「選択的忘却」がある。それは、複雑な課題に直面したとき、思考は行き詰まり、堂々巡りをしてしまい、ずっと同じ課題に取り組んでいると、過去の解決策に固執するようになる。

 ところが、課題から離れてほかのものに意識を集中させると、同じ解決策へのこだわりから解放され、古い思考経路の記憶を薄れさせることができる。その上で、またもとの課題に戻ると、新しい可能性をより柔軟に考えることができるようになる。この時、偶然の出来事やたまたま目にしたものがきっかけで意識がもとの課題に戻ると、ひらめいたと感じるのかもしれないという説である。