孵化状態にするには

 

 孵化とは、卵がかえること、または卵をかえすことを意味する。アイディアを量産したら、あとは使えるアイディアに育つまで寝かせておくということのようである。アイディアマンと言われる人々は、概ねこの意見に賛同しているようであるが、ミクロに分析すると、「孵化の仕方」にも三つのタイプがあるように思われ、非常に興味深いところである。

 一つは、アイディアを量産した後は、全くリラックスしてアイディアの事をすっかり忘れてしまうことだといっている。二つ目は、量産したアイディアから離れて、別の仕事に取り掛かることだと指摘している。そして、もう一つは、アイディアを量産したのち、徹底してこれをよいアイディアに育てるために努力するが、疲れ果てて休息するとしている。

 ここで共通しているのは、理由ややり方は違っても、イアディアからいったん離れた時に「アッという閃き」が訪れるということである。私の場合は、こうした状況を「波状攻撃」と勝手に呼んでいる。そう名付けている理由は、「孵化状態」にあるときも、アイディアを完成させるためのピース(情報)を潜在意識の中で探索しているように思えるからだ。 

 ということは、探し求めているピースが必ず見つかるとは限らないが、もしも見つかるとすれば、それは全くの偶然ではなく、やはり問題の本筋を捉えて情報を収集したことと無関係ではないように思われる。その証拠に、孵化する状態に至るまでには、あらゆる能力を総動員して取り組んできた、地道な営みが隠されていることが認められるからである。

 繰り返しになるが、「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる」というのも真実であるが、「下手な考え休むに似たり」というのもまた真理である。アイディアを量産し、集中して考えることは必要であるが、ただ闇雲に悩むだけでは道は開けない。そんな時は一度頭を休めると活路が開けるということを現している言葉で、現在にも十分意味のある昔の「諺」である。

 ただ、興味深いのは、「頭をリラックスさせることの効用を過大評価され過ぎると逆効果である。なぜなら、頭をリラックスさせるとそれまでの勢いが止まり、好奇心が押しつぶされ、類似点やつながりや関連性を見つけるための鋭い観察眼をもとうとする努力がストップしてしまう(ジャック・フォスター)」という意見もあり、ここが微妙なところである。