水平思考による発想の転換

 

 水平思考とはどういうことを言うのかは、必ずしも明確に定義されているわけではないが、実際の出来事を通して考えてみると解りやすい。私たちは、昔から直線的かつ垂直的にものごとを考えるように教育を受けているので、AならばB、BならばCというように垂直的に論理を重ね問題の根幹を捉えようとするが、これでは中々答えが見つからない。

 例えば、「遅刻する社員があまりにも多いので、注意をするとほんの少しだけ遅刻するものが少なくなるが、何度注意しても抜本的な改善が見られなかったため、時間ごとにポラロイド写真を撮って展示したところ劇的に改善した。」というケースでは、社員は他人(会社)の問題と捉えて甘く見ていたが、写真が展示されたことで、自分の問題だと気づいた。

もう一つ別の事例を挙げると、ある古物店の店頭に、「純金製」と称してかなり破格な値札がついた仏像が展示されている。これを見かけたプロの古物商は、純金製にしては安いので買い得と思い、商談を持ちかけた。ところが、店主曰く、「これば偽物です」といった。お客は、すかさず、「偽物でもいいから売ってくれ」といって、強引に買い取ることにした。

しかし、「現金の持ち合わせがないので、家にとりに行ってくるので、それまで待っていてくれ」と言い残し、店を後にした。しばらくして戻ってきた客は、その仏像を手にすることができた。しかし客がお金を取りに戻っている間に、店主は「偽物」と取り換えたのである。後にそのことに気づいた客は、当然抗議を申し込んだが、店主はこれを一蹴した。

 つまり、店主の言い分は、「最初から、これは偽物です、といったではないか。」というわけです。この2つの事例は、ものごとを論理的にとらえ過ぎて、相手が意表を突いた行動に出るといったことを見逃していたことにある。言われてみれば、確かに、直線的・垂直的な思考からしてみれば、「そんな手があったとは!」ということになるのかもしれない。

 こうしたことは、私たちの日常生活の中で、頻繁に起こっているにも関わらず、これをアイディアとは認識していないだけである。アイディアは、新製品やサービスの開発の際にだけ必要なものではなく、柔軟な思考により、これまで蓄積された情報と組み合わせることで、新たな発想力が培われていき、さらに優れたアイディアを生み出す原動力となる。