試行錯誤から学ぶ戦略

 

 人は目標を設定する場合、どの程度の努力をすればどのぐらいの期間でそこに達成するのかを頭の中に描く。例えば、大相撲に入門しようと決意するとき、どのぐらい稽古を積めば、幕内力士になれるのかが一大関心事で、「それならやれそうだ」「絶対に無理だ」などという自分なりの判断基準に基づき、入門するかあるいは諦めるかを決めるはずである。

 一度しかない人生の中で自分の夢を設定し、それを実現するためには、運不運はあるにしても相当な努力が必要であることは覚悟しなければならない。同時に、そのことにより、もし別の道を選べば得られたかもしれない利得を犠牲にすることになるわけであるから、それはまさしく機会原価であり、大きな犠牲を伴った決断でもあるということにもなる。

 こうした一大決心が実を結び、成功をおさめた人に言わせると、成功の秘訣は「決してあきらめないことである」という。しかし、決してあきらめずに突き進んだ結果が成功を保証するものであったなら、あまり失敗する人はいなくなる筈なのに、現実には、あきらめが悪く、突き進んだことにより涙をのんだという人の方がはるかに多いのではないか。

 実は企業の経営戦略も同じで、確率論からいえば成功と失敗の確率はどちらも50%であり、戦略を企画する時点では絶対成功するという確信はなく、PDCAサイクルを回しながら、修正や変更、再構築を繰り返しながら、目標達成への近道を模索している。そして、成功が見えてくると、その道筋を逆にたどり成功の要因として後づけしているに過ぎない。

 つまり、ものごとを実行しようと決意して踏み切ると、目標達成に向けて歩き出すが、そこには幾多の障害物が現れたり、ハプニングに遭遇する。しかし、そのことで萎縮してしまい諦めてしまえば成功はありえないから、試行錯誤を繰り返しながら前へ進まざるを得ない。このことを称して、「諦めないことが成功要因だ」という言い方になるのである。

 試行錯誤するということは、別の言い方をすればリスクヘッジを考えているとことにもなるわけであるから、一度設定した戦略に基づいて猛進することが「諦めないこと」の中身では決してないことを知るべきである。成功者の体験談を聞くということは、どのような局面でどのような判断をしたのか、その仮説検証のプロセスに耳を傾けるべきである。