フレキシブルな経営戦略

 

 中小企業の経営者から投げかけられる質問は様々であるが、その中で、「経営計画の策定は不可欠なのか?」というのが最も多かったように思われる。それも、本当は質問ではなく、「そんなものは意味がない」ということを言わんとするための前置きに過ぎない。つまり、経営者は質問ではなく、議論を挑んでいるといった方が正しい言い方のように思える。

 そうした時には、経営計画の必要性を論理的に順序立てて説明することもあるが、否定的な固定観念を持っている経営者には逆効果であると感じている。何故ならば、そうした経営者は、実のところ経営計画が必要であることを十分承知しているのに、敢えて、否定的にとらえて、それが机上論であることを誇張する姿勢で議論に挑んでくるからである。

 ものごとが計画通りにいかないことは、誰でも承知しているが、もしも、無計画に物事を進めたらどうなるか。成行きに任せて行動することの弊害に比べれば、目的の達成のためには、計画が不可欠であることは明らかである。ましてや、複数の人が共通の目的に向かって協働する場合、計画に沿った行動がなければ、それぞれ異なったベクトルに向かう。

 実は、経営計画無用論を主張する経営者こそ、計画的に行動しているからこそ、思い通りに業績に結びつかないことに苛立ちを感じている。そのことが、どうせ成果が期待できないのであれば無駄だという思いから、経営計画策定に対して後ろ向きになってしまう。その原因の多くは単一のフレームワークで経営計画を策定することにあるように思える。

 すなわち、フレームワーク思考により、経営課題をMECEに捉えるのはよいが、全体を部分に分解する場合、どうしても分析しかねる部分もある。これを無視して唯一の計画と位置づければ、計画と実績の間に差異が生じることになる。これが許せないから計画の策定は無意味であるという論法では、変化の激しい環境に適応することは不可能に近い。

 どんなに優れた分析力によっても、確率変数的に変化する環境を完全に予測することはできないわけであるから、そのことを織り込む計画が求められることになる。如何にビックデータの時代だからといって、「気温が1℃上がると、ビールの消費量が何リットル増える」ことを保証するものではない。計画とは元来そうしたリスクヘッジを含むものである。