究極のリスク管理

 

 ポートフォリオの究極の目的はリスクの分散を図ることにある。すなわち、例え儲けがなくても損はしたくないという気持ちが背後にあるわけであるから、裏を返せば、「虎穴に入れずんば虎児えず」という冒険心も含まれていることになる。そうでなければ、リスク分散を目指すというポートフォリオ戦略ではなく、単にリスクの回避戦略とすべきである。

 要するに、「君子危うきに近よらず」というのではなく、ハイリスクハイリターンの領域にも踏み込むが、それが失敗に終わったとき、すべてを失う危険を回避するため、保険をかけておくという戦略が本来のポートフォリオ戦略なのである。ということは、元々、経営資源の脆弱な中小企業には向いていない戦略であるともいえるが、果たしてそうなのか。

 ゲーム理論では、勝つことを考えず、ひたすら負けないことを目指したものが最終的に勝者になることが多いが、それならば、ゲームに挑まなければ済むという理屈にもなる。しかし、ビジネスの世界ではすでに市場に参入しているか、参入することを前提に議論が進められているわけであるから、収益の陰には常にリスクが潜んでいると見るべきである。

 その上で、ハイリスクハイリターンとローリスクローリターンを組み合わせ、投下した資本の回収・増幅を狙って選択しようとするのがポートフォリオ戦略であり、その方策が多角化戦略や多様化戦略である。しかし、顧客をセグメントしただけで競争に勝てるというものではないだけに、新製品の開発や新用途の開発、新市場の開拓などが組み込まれる。

 リスク管理という側面から見ると、ポートフォリオは究極のリスク管理手法ではあるが、経営戦略は通常積極的なものであるべきものなので、高く設定された目標を達成するための道筋である。そこには積極的意思が働いているため、リスク回避に対する意識がやや希薄になる傾向がある。中小企業が事業領域を設定する場合に迷い込むのはここの所である。

 例え社会貢献度の高い製品であると見込まれても、顧客がどのように反応するかが不明確である場合は、ハイリターンが期待されるとしても、決して踏み入るべきではない。社会の要求が高まるのを待つか、小まめに社会実験を繰り返し市場の反応を見るべきなのに、ハイリスクを孕んでいることを無視して、不透明な市場に経営資源を注ぎ込んでしまう。