ポートフォリオ戦略の基本

 

 ポートフォリオ戦略の基本は、顧客をある基準によりセグメントし、そのセグメントされた顧客が望む付加価値を提供することが狙いである。したがって、顧客のポートフォリオには、製品のポートフォリオや人材のポートフォリオの適正な組み合わせが伴うものとなる。つまり単に顧客をセグメントしただけでは、業務改善をしただけに留まってしまう。

 顧客をセグメントする場合、既存市場を前提としたものばかりではなく、場合によっては、顧客を啓蒙し市場を再定義する必要に迫られることもある。例えば、冷蔵庫は低温で保存するものという常識を覆し、調理しやすい温度で保存するものであることを伝えることで、極寒の地における新たなニーズを掘り起し、事業の定義域の拡大を図るなどである。

 こうした場合は、寒冷地仕様の製品開発とこれを担う人材の組織再編が必要になる。また、これまで、各社各様の仕様で製造されていた部品を共通仕様にすることで、これまで取引のなかった業種からの受注が増加した場合なども、市場が再編成されることになるから、顧客をセグメントするということイコール市場の細分化を意味するものとは限らない。

 このように、顧客セグメントとは、市場を細分化して特定のニーズに応えるため、「選択と集中」を戦略の柱にすることであるという狭い捉え方をするのは適当ではない。女性専用の化粧品を男性用に改良して市場を拡大する。メガネのジェイアイエヌ(JINS)は視力矯正の道具としてのメガネをPC作業用や花粉症対策用を開発し、市場を拡大している。

 これまでのビジネスモデルは、「いいモノ、美味しいものなら売れる」という考えを唯一の根拠にして、新製品を市場に提供することというのが多くのモデルであった。しかし、このスタイルでは、すぐに同業他社の猛追に遭い、あっという間にコモディティ化してしまうため、不用意に多角化戦略に踏み切ってしまうというパターンを繰り返すことになる。

 こうして見ていくと、ポートフォリオ戦略には幾つかの基本原則というようなものが見えてくる。それは、まず、普遍性のある需要に裏打ちされた製品を軸に据えられていること、社会的要請にこたえ得るもの、自社のポジションと経営資源の質量に見合うもの、そして、比較的容易にリーチできる可能性の高い領域であること、などが必須条件である。