ゲーム理論の活用の仕方

 

ゲーム理論は、基本的には相手と戦って勝つこと、つまり自分の利得を対戦相手よりも多くするための戦い方について理論である。しかし、ゲームに勝利することと成功することとは違うことについてまでは言及していないので、現実の社会に適用するためには、本当の勝利とは何かをしっかりと踏まえたうえでなければ、合理的な均衡を見つけられない。

そのよい例が戦争である。戦争こそが戦略の原点であるから、ゲームとして扱えば、多様な戦略が考えられるし、表面的な利得については容易に計測できるが、そもそも、戦争をすることによって得ようとする利得がなんであるかを考えると、当事者双方が目指している成功のビジョンとはかなりかけ離れたものになってしまう虞が多いように思われる。

それにもかかわらず、地球のどこかで戦争は常に繰り返されているのはなぜなのだろうか。それは、物質的な利得ばかりではなく、宗教や主義主張の違いによる「正義の定義」によるところによるものである。元々、「正義」とはそれ自体崇高なものではあるが、その人や国の立場・立ち位置によって異なるものであるから、どちらが正しいかは解らない。

 ただ、「正義」について共通して言えることは、「平等かつ公平」であることである。しかし、これを判断する尺度もやはり「正義」に依存しているので、やはり戦争当事者を平等かつ公平に扱うことは難しい。ゲーム理論では、各プレイヤーが一定のルールの下で、合理的に意思決定をして利得を最大にすることが原則で、感情による行動は扱っていない。

 しかし、実社会においては、利得を求めて挑んだはずの裁判などでも、最後は物理的な利得を度外し、感情論がいつしか先行してしまうこともしばしばある。だからと言って、ゲーム理論が役に立たないというわけではなく、こうした無益な争いを避けるためにこそ活用されるべきものである。これがゲーム理論開発の本当の狙いであるはずではないか。

 確かに、ゲーム理論は合理的な意思決定が求められる経営戦略などへ活用すれば、自社の利得が守られる可能性が高まる。しかし、対戦相手を不幸にすることを目的とする使い方をすれば、「裏切り」や「しっぺ返し」という形で報復を受ける危険性も増すことになるので、「対戦相手のリスクを少なくすること」が、ゲーム理論の正しい活用の仕方である。