情報の非対称性

 

情報の非対称性の例でよく取り上げられるのは、車や住宅などの中古取引である。例えば、中古車取引でいうと、車を売りたいユーザーが買い手であるディラーに持ち込む場合、ユーザーは車の整備状況や事故歴などの情報を持っているが、ディラーは、その車に関する情報はほとんどもっていない。つまり、両者の間には情報の非対称性があるわけである。

 車の品質は「よい」と「悪い」の2つとすると、ディラーの行動選択は、「買う」か「買わない」かである。ディラーは「よい」車なら100万円、「悪い」車なら50万円で買うという認識を両者は共有しているものとすると、「よい」車なのか「悪い」車なのか不確実な場合、ディラーは期待値を買値とする。つまり、「自然」が判断して決めるということだ。

 ディラーが「よい」と予想する確率をPとすると、「悪い」と予想する確率は1-Pとなる。この確率を信念と呼んでいる。「よい」車である信念を1/2とすると、「悪い」車であるとする信念も1/2となる。この時の車の期待値は、1/2×100+1/2×50=75となる。よってこの価格75万円がディラーの提示する車の買い取価格ということになる。

 このとき、ユーザーは「よい」車を持ち込んだと認識しているのであれば、ユーザーは25万円も低く査定されたことになるので、販売を断念するであろうが、逆に「悪い」車であると認識していた(50万円の値打ち)とすれば、25万円も得をするので、喜んで売却することになる。このように考えれば、「ゲームの木」を活用して解くことが可能になる。

 しかし、実社会においては、このような情報の非対称性を解消する装置が備わっている。それはある種の経験則とでもいうべきもので、「売り手市場」であるか「買い手市場」であるということが実際の取引価格に大きく影響する。すなわち、この車の例の場合でも、ユーザーが自分の車の値打ちを100万円であるとした根拠もそこにあるはずだからである。

 いずれにしても、中古車販売や不動産業などは、販売業やサービス業である以前に、情報武装産業といわれる所以はそこにあるわけであるが、情報の非対称性の問題は、随所に発生することを考えると、情報不完全ゲームを有利に進めるためには、ベイジアン・ゲームの基本的考え方を理解しておくことが必要であり、あらゆる問題の解決に応用できる。