ベイジアン・ゲーム

 

 情報完備ゲームでは、プレイヤー同士がお互いにルールを熟知している(共有知識がある)ことを前提にしているので、意思決定に強力な力を持つバックワード・インダクションが使えるが、情報不完備ゲームでは、誰か一人でもよく知らない人がいる(共有知識がない)とこの手法も使えない。こうしたゲームのことをベイジアン・ゲームと呼んでいる。

 ベイジアン・ゲームは厳密にいうと情報不完備ゲームではないが、戦略上の観点から、ゲーム理論では両者を同一視して考えているようである。ベイジアン・ゲームは、そのままの状態では解くことができないので、プレイヤーのタイプというものを考えるとき、どのタイプに属するプレイヤーであるかを、自然がある確率で決めるという考え方である。

 すなわち、それぞれのタイプのプレイヤーの戦略や利得はわかっているとする。そして、どのタイプかは「自然」がある確率で決めると考えるゲームである。通常、私たちは歴史や経験から人間や企業のタイプを考え、相手がどの型なのかを推定し、そこから考えられる相手の行動を予想して対応する。情報不完備ゲームもこれと類似したものと考えられる。

 情報が不完備ということを、プレイヤーの情報に偏りがあるということであるから、情報の非対称性がある状態を考えれば、容易にイメージできる。例えば、「スポーツ」という切り口で、「野球」「サッカー」「ゴルフ」「テニス」などタイプを分けるとすると、それぞれ行動パターンが異なることになる。このタイプに対して行動選択肢を対応させてみる。

 プレイヤーの実際のタイプがどれにあたるかは、情報の少ないプレイヤーにはわからない。それは自然というプレイヤーが決めるものだとする。つまり、自然が各プレイヤーのタイプを確率で割り当てるわけである。ここがゲームの「根」にあたる部分である。そうすれば、相手のプレイヤーのタイプや他プレイヤーの行動選択肢が対応した利得が決まる。

 こうして決まった「利得の組」のもとで、各プレイヤーが自分の利得を最大とする行動を模索することでゲームの結果を出す。ここで重要なことは、ベイジアン・ゲームにおいては、「情報の非対称性」によって生じるギャップをどのようにして補うかという視点である。そして、一般社会では、むしろこうした「情報の非対称性」との戦が常態化している。