継続ゲームのトリガー戦略

 

囚人のジレンマでは、1回限りの同時ゲームであることを前提にしていたので、相手を裏切って「自白」することがナッシュ均衡になってしまう。しかし、もしも継続ゲームないし交互ゲームであれば、「裏切り」は長期的に見て得策ではないことを学習することになり、その後はお互いに協調し合い、「黙秘」を続けることがベストな選択であることを確信する。

そして、何らかの事情により相手が裏切り「自白」をした場合は、「しっぺ返し」をするという圧力をかけることで「黙秘」という強調戦略の安定性を保つことができる。このように、相手の行動によって、自分の行動を決めるというやり方を「トリガー戦略」と呼んでいる。つまり、自分が行動するきっかけとなる相手の行動がトリガー(引き金)である。

こうした奇妙な安定は、実社会でも随所にみられる。例えば、「カルテル」など直接的なものばかりではなく、ブランド戦略などもある意味で、消費者との信頼関係を保つことで、価格の安定と品質の保証というバランスを維持している。これは、正しくメーカーと消費者との間で、自然発生的に形成された暗黙の了解による「協調」に他ならないわけである。

また、国際関係における「戦略的互恵関係」なども、「協調」により、両国の利得の安定を目指した関係である。この場合は、特に「裏切り」を防止するための「トリガー戦略」が大きな抑止力となり、両国の互恵関係が保たれるはずであるが、現実には国際交流がグローバル化し複雑になるに連れ、経済的な利得だけでは協調しきれない関係が生じている。

さらには、雇用者と被雇用者との関係にも、ゲーム理論を適用することができる。経費の節減によって企業の利得を確保したいと願う経営者と、労働の対価としての賃金を増加させたいと願う労働者は、本来同じベクトルに向かって協働することが前提であるはずだが、実際には、極めて希薄な「協調」関係で繋がっていることも稀ではないようである。

こうした場合、経営者にとっての「費用」と労働者にとっての「所得」の間にある利得を巡る隔たりを、双方が協調することにより、経営者の解雇権と労働者の低生産性というトリガーに手をかけることを防止することができる。こうした関係が保たれるために労働組合が結成され、長期的に継続されるゲームとして、「協調」のあり方が模索されている。