協調としっぺ返し

 

 世の中には、囚人のジレンマ状態で悩まされることは多い。この状況から逃れるため、お互いに胸襟を開き「協調」することでお互いの利得を守ろうとするのは自然なことで、何らかの形で均衡を保っているような場合は、少なくとも表面上は安定しているように見えるが、その状態が未来永劫続くという保証はどこにもないわけであることも事実である。

 すなわち、強調しあうことによって、戦うよりも利得が大きいことを関係者が確認し合っているときは、「協調」が最高の戦略であるが、このバランスが崩れたり、プレイヤーの一人が裏切れば、当然、その瞬間は裏切り者の利得が最大になる。こうした場合に、他のプレイヤーはどのように対処するのが自己の利得を守るために有効なのだろうかと悩む。

 その結果、選択する戦略が「しっぺ返し」でる。つまり、裏切り者に対して仕返しをするわけである。そうすることで、「裏切り」の代償の大きさを思い知らせ、強調することの方が、最終的に利得が大きいというメッセージを発する。この戦略は、時間を置いてしまうと効果が半減するので、間髪を置かず即座に実行するのが鉄則だという実験結果もある。

 「しっぺ返し」戦略は、相手の対応によって選択されるものであるから、まずは、「協調」を基本姿勢とし相手の「裏切り」を監視することになるが、一旦、「裏切り」が生じてしまえば、「協調」を続ける意味がなくなるので、直ちに「しっぺ返し」に戦略を変更することになる。この戦略は受け身的であるため、ある意味で消極的ともいえるが、利得は守れる。

 オイルショック前後、ガソリンスタンド業界では、カルテルを結び小売価格の安定に心を砕いていた。「協調」をすることを約束し、お互いの利得を守ろうとしたが、必ず「裏切り」が発生する。しかし、「カルテル」自体が違法であり、「裏切り」が消費者から歓迎されることもあり、「しっぺ返し」戦略は有効には働かず、裏切り者の一人勝ちとなった。

 こうした場合、カルテルなどという後ろめたい「協調」戦略を取らず、堂々と価格表示をすることを奨励すれば、違法性もなく「協調」体制も保てるうえ、「裏切り」に対する「しっぺ返しも」戦略が有効に働くことになる。業界関係者がこのことに気づき、現在のような価格表示が定番となるまでに、実に数十年の歳月を要する結果になったのは驚きである。