ゲームのルールを変える

 

 競争入札は、「囚人のジレンマ」と似ている状況といえる。囚人がジレンマに陥るのは、共犯者同士がお互いに協調して、黙秘を通せば刑罰は軽くなるが、共犯者が先に自白すれば罪が免除され、自分の罪は重くなる。そこで、黙秘すべきか、自白した方が得かと悩むというジレンマに陥ってしまうわけである。競争入札ではこのジレンマを逆利用している。

 つまり、競争入札では、できるだけ利得を大きくするためには、入札額を大きくしなければならないが、競合相手が自社より低い価格で落札してしまえば、自社の利益はゼロになってしまう。そこで両社は強調を持ちかけられると、これに応じてしまうことになる。これが談合のメカニズムであるが、一度手を染めてしまうとなかなか抜け出すのが難しい。

 談合の形は様々で、どちらかが高い価格で落札するようにして、談合により生じた利益を折半するというものや、セリなどの場合は、できるだけ低い価格で札をいれ、そのうちの誰かが落札した後で、入札参加者間で再度、取り引きするというものもある。いずれにしても、談合は非合法のものであるから勧められないが、「協調ゲーム」の理解には役立つ。

 「囚人ジレンマ」は、同時ゲームであることを前提にしているが、「談合」など実社会における「囚人のジレンマ」では、同時ゲームであることが稀であるから、交渉を続けながら同じような状況を延々と繰り返されることになる。同じ当事者間で同じような状況がいつも起こることによって、「協調」と「裏切り」により生じる利得に注目されるようになる。

 ただし、「談合」は永久に露見しないということや参加者が絶対に「裏切らない」という保証があるわけではない。ここに、「談合」を防止するヒントが潜んでいることを見逃してはならない。これまでも法律を改正するなどして、様々な談合防止策を講じてきた。例えば、「談合」の首謀者には、罰金、指名停止、刑事罰を科すなどの措置を取るなどである。

 最近は、談合が行われたのちに、その談合が発覚しそうになったとき、最初に申し出た企業にはペナルティを減免するという措置を取ることで、談合の防止策を講じている。これは正に、「囚人ジレンマ」そのものであり、「非協調ゲーム」を「協調ゲーム」に転換させた「談合」を「同時ゲーム」から「交互ゲーム」に変えて巻き返しを図ったものである。