時間不整合の問題

 

 ある地域には唯一のスーパーマーケットA店があり、シェアは100%であるとする。この地区にスーパーマーケットB店が参入を狙っている。「B店は参入すべきか、それとも断念すべきか。そして、迎え撃つA店はどのように対応すべか」という問題を戦略型ゲームで考えると、A・Bの選択肢は、A(戦う、融和する)、B(参入する、断念する)となる。

 しかし、実際には、Aが戦うという戦略をとるのは、Bが参入する場合だけであり、Bが参入を断念すれば、Aは戦うことも融和することもないわけである。しかし、現実にこうした問題が生じるのは、戦略型ゲームの形ではなく、交互ゲームとして捉えなければ意味がない。つまりBの戦略によってAの対応が変わる展開型ゲームとして扱うべきである。

 ゲームの木で問題を整理すると、まず、Bが「参入するか、断念するか」の意思表示を決定しなければならない。もともと、Aは地域の市場を独占していたので、これまでAが得ていた利得を「3」する。したがって、Bが断念すれば得られる利得は「0」である。Bが「参入する」という戦略を選択した場合には、意思決定の順番はAに移ることになる。

 この場合、Aの利得は減少するのは必至なので、「戦う」という選択肢を選べば、価格競争が起こるので、A・Bともにダメージを受け、お互いの利得は(-1、-1)となる。逆にAが「融和する」という意思決定をした場合は、Aは当然シェアを減らすことになるが、お互いの利得は(1、1)となり、最悪の状況になることは避けられることになる。

 この例は、話を解りやすくするために単純にしたものであるが、現実の社会現象では日常的に生じている問題に応用できる。例えば、仲間意識が強く閉鎖的な組合などが、組合への加入ハードルを高く設定して、仲間の既得権域を守ろうとしている場合、新規加入者が高いハードルを乗り越え、組合に加入するやいなや、友好ムードに一変するなどである。

 つまり、A・B両スーパーの場合もそうであるが、「戦う」という選択肢は、常に選択される可能性があるというものではなく、「参入(加入)」を阻止するための「脅し」であって、実際には「融和(友好)」の意思表示を懐に抱いていることが多い。こうした構造を見抜くためには、「時間不整合の問題」として捉え、「ゲームの木」により解を求めるとよい。