情報不足による不合理な判断

 

 ゲーム理論では、何かにつけて「囚人ジレンマ」が顔を出す。それはたぶん、当事者でなければわからない心理が働いているからなのであろう。囚人の立場からすれば、お互いに黙秘すれば、それが最高の利得になることは承知しているのに、もしも相手が先に自白してしまえば、こちらは最悪の利得になってしまうかもしれないという疑心暗鬼に陥る。

 第三者の立場からすると、全体の状況は見えていても、本人(当事者)の立場では、情報が不足しているので、例え事前に鉄の結束があったとしても、「もしかしたら」という不安が頭をよぎり、「黙秘」を選択する意思が揺らぐのは自然なことである。つまり、「非協力ゲーム」、「不完全情報ゲーム」の典型であり、実社会でも日常的に現れる現象である。

 ここで「非協力ゲーム」とは、ジャンケンや将棋のように、お互いが対立し合って勝ち負けを決めるゲームであるのに対して、「協力ゲーム」は、完全に白黒をつけるのではなく、話し合いや交渉によって「利得」を分け合うケースのことである。例えば、政治決着などのような妥協によるものや「カルテル」「談合」による解決などが、その典型的な例である。

 一方「完全情報ゲーム」とは、将棋やチェスのように、相手の指し手が全てわかっているゲームのことであり、ゲームの構造が、すべてのプレイヤーに明らかになっている状況を「情報完備な状況」と言っている。また、麻雀やポーカーは、相手の手の内は推理するしかないため、「不完全情報ゲーム」である。この状況を「情報不完備な状況」という。

 「情報を制するものは全てを制する」という言葉があるように、非協力ゲームでは、有力な情報を持っている方が圧倒的に有利になる。例えば、「キチンゲーム」の場合でいうと、「崖の向こうが海で、ブレーキをかけずエンジン全開で崖に迎えは、海にダイビングすることになるが、最少のリスクで切り抜けられる」という情報を一方が持っていたらどうか。

 この情報を知らない相手は、危険を防止するため、相手より先にブレーキを踏むという行動に出るに違いない。また、相手と談合あるいは協調することで、非協力ゲームを協力ゲームに転換するという方法もある。この場合でも、やはり良質の情報をどれだけ持っているかで、相手との交渉力が規定されるので、有利なゲームに転換できる可能性も高まる。