異質性だけでは危うい経営革新

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 中小製造業が経営革新に踏み切る動機は、長年培ってきた技術力やノウハウを生かして製品開発する場合が多い。しかし、経営資源が脆弱な中小企業では研究開発に必要な資金の手当てを補助金や融資に依存しなければならないが、製品が完成しさえすれば、投資額は必ず回収できると考え、万難を排して製品開発に取り組むケースが多いように思われる。
 タイムスケジュール通りに製品が完成したとしても、どのような販売ルートで売り捌くのか、広告宣伝はどのようにすべきかなどについてはこれからという現実に直面する。せっかく苦労を重ねて完成した新製品を一日も早く販売したいという思いから、今度は何とかマーケティング費用を工面して、販売促進のために会社の全精力を傾けることになる。
 もちろん、見本市への出品などに対する助成策も用意されてはいるが、製品開発のために体力を消耗しきった身には、こうした重圧に耐えきれなくなり、中には自己破産に追い込まれてしまったという例も少なくない。こうしたケースを考えると経営革新を支援(指導)する立場にあるものは、製品の異質性だけではなく経営資源全般に配慮すべきである。
 中小企業経営者は自己実現意欲が高いためか、製造から販売まで全ルートにおけるチャネルキャプテンとなることを強く望んでいる。長年下請企業の地位に甘んじてきた企業の場合は特にその傾向が強く、文字通り命を懸けて新製品の開発に取り組む。そこには、「いいもモノは必ず売れる」という信念と「売れてほしい」という希望が日々交錯している。
 国や支援機関の立場からすると、経営革新を志し途中で息切れしてリタイアすることがあっても、全体として産業界が活性化すれば、雇用の創出にもつながるのでトータルとしてみれば得策であるという考え方なのかもしれない。しかし、企業が破産することで影響を受けるのは、経営者ばかりではなく、家族や友人、取引先など広範囲に及ぶことになる。
 取引先や従業員は、夫々の自助努力により再生は可能であるかもしれないが、経営者やその家族は生活基盤を全て失ってしまう。経営者が自らの責任において決断を下すべきものであるとはいっても、支援者がミスリードすることの責任は大きい。異質性のある製品だけに着目した経営革新は、こうした危うい面と背中合わせであること認識すべきである。