事後検証(その1)

  バランス・スコアカード導入の最大の目的は、戦略的経営を「見える化」することにあるが、折角苦労して経営理念を基にビジョンや戦略、重要成功要因の設定、業績評価指標選定をしても、一貫性のあるストーリーとして整合性が保たれたアクションプランに結びついているとは限らない。何故ならば、設定された因果関係はあくまで仮説だからである。
 因果関係を測定するといっても、純粋な因果関係が存在することは滅多になく、現実には正の相関関係があることが認識できる程度であることが多い。さらに、財務分析で得られた指標は、元々売上高から営業利益に至るまで、何らかの関係があるわけであるから、これらが複合的に影響し合い、重回帰分析では同質の指標であると判別されることもある。
 バランス・スコアカードでは、4つの視点ごとに4種類、合計16種類の業績評価指標を設定するのが管理しやすいといわれている。これには確たる根拠がある訳ではないが、現実的な管理スパンを考えると概ね妥当なように思われる。実際、ここで選んだ4種類の指標でも因果の連鎖として捉えるのはかなり難しいが、仮説思考の基礎となる試みではある。
 同業種で同規模の企業の場合、売上高と従業員数の間には正の相関があることは認識できるが、製造原価、販売費、管理費という費用構造ではかなり差が生じていて、営業利益の段階になると、同業種とは思えないほどのバラツキが出てしまう。もちろん、そうした差異が生じてしまう原因は様々であり、必ずしも運営力の差によるものだけとは限らない。
 しかし、売上高を獲得するためには、原材料と役務を投入して完成させた製品が棚卸資産となり、販売されるというメカニズムを考えると、自社なりの理論的費用が試算されているべきであるから、少なくとも経営計画書策定の時点では、各費用間には何らかの因果関係があって然るべきであるが、実績との差異をグラフ化してみると全く解釈がつかない。
 こうしたことが日常化してしまっているため、計画はあくまで計画であり、現実とはまたく異なるものである。こうした真しやかな理由により、経営計画書を策定しない理由にしている企業は多く、策定していても数値目標を対前年比で羅列しているに過ぎない。この無手勝流の理論に反論することができなければ、方針の転換を促すことさえできない。