バランス・スコアカードの運用

 バランス・スコアカードは、設定された経営戦略を具体的に推進するためのツールであると同時に、選択された戦略そのものの妥当性を検証し、新たな戦略を打ち出すために活用されるものである。もちろん、このツールを活用して、社員個人の業績を評価するという活用の仕方も考えられるし、事実そうした運用をしている企業も数多く存在している。
 しかし、評価ありきというだけの運用では、選択された戦略が妥当であったのか、あるいは、時代や自社の経営資源、市場におけるポジションなどに見誤りがあったため、目標として掲げた成果が達成できなかったのかなどの検証が抜け落ちてしまう。戦略の設定は、得られた情報を基に構築された仮説であるから、PDCAサイクルの検証が欠かせない。
 また、バランス・スコアカードは、経営トップと各組織階層とをつなぐコミュニケーション手段という基本的な枠組みでもあるので、情報の共有というスタンスを保たなければならない。つまり、一方通行の評価ツールとしたのでは、単なる評価制度に過ぎないことになり、本来の目的である戦略経営の推進ツールとしてのモニタリング機能が果たせない。
 バランス・スコアカードに限らず、旧来の制度を改革しようとすると、必ずどこかで痛みを伴う部分が生じてしまう。その最たるものが人事制度の改革で、特に給与制の改革には必ず賛否両論が出てしまい、経営者によほどのリーダーシップがないと、改革案は先送りされてしまい、結局は「傷のなめ合い体質」がより一層強化されてしまうケースもある。
 バランス・スコアカード導入も例外ではなく、トップの強いリーダーシップがなければ成功はおぼつかない。真の導入目的やその運用方法について理解していなければ、見方によっては締めつけの道具と映ることもあるので、導入することの意味はもちろん、運用ルールについても十分にコンセンサスを得ておくことが、混乱防止のためには必要である。
 スコアカードの計算方法は、前年同期実績、今季目標、今季実績を算出して達成度や伸び率を求めるというのが一般的である。これは、従来の差異分析の手法そのものなので比較的取り組みやすいが、問題は、差異が生じた原因をどのように解釈するか、あるいは、その背後に潜んでいる重要な原因を仮説思考により抽出するというのが基本動作である。