数値(ターゲット)の設定

 業績評価指標を設定したことを受けて、この指標を実際の数値目標で設定しなければならないが、売上高や総資本利益(率)といった定量的な数値として捉えられるものばかりではない。業務のプロセスが財務目標の達成にどれだけ貢献したかを測るのは困難であるが、因果関係を明らかにできていることが根底にあるのであれば、理論的には可能である。
 しかし、実際には、ある指標は向上したがある指標が伸び悩んだため、全体として目標は達成されなかったということは起こり得る。すなわち、数値や算式で示すことのできる定量的な指標と、顧客訪問件数のように数値そのものよりも内容が重視されるものもあるし、顧客満足度のように客観的な尺度では測りにくい指標もあることに配慮すべきである。
 いずれにしても、バランス・スコアカードでは、数値ターゲットを具体的に示し、「経営を見える化」することが狙いであるから、戦略目標達成のための重要成功要因と業績評価指標の関係を数値で表現しなければならない。業種や企業によっては、経験則から回帰分析を行い、これを検証することにより回帰式の精度を高めていく仕組みを確立している。
 実際に定量的な財務指標を用いて回帰式を作ってみると、経営資本営業利益率を高めるために重要な指標が抽出され、しかもその指標の重みづけも明らかになったという事例もある。因みに、この企業では、バランス・スコアカードを導入する目的ではなく、従業員の行動と全体目標の達成との因果関係を測定することを目的に分析を行ったものであった。
 そして、この企業では、これまで奨励していた顧客訪問回数と業績の間にはあまり有意な因果関係が存在しないことが判明した。さらには、売掛金の回転率の向上と売上高利益率が正の相関関係にあることも明らかにされた。このように業界や企業の常識を疑ってみるためにも、バランス・スコアカードの導入を検討してみる意義は大きいものと思われる。
 少なくとも、バランス・スコアカードの導入の初期においては、あまり欲張らずに、まずできるだけ定性的な指標を用い、その指標の根底あるいは背後にある定性的な要素を帰納的なアプローチで仮設定し、取敢えずPDCAサイクルを回してみる。そのなかから徐々に真の因果関係が見えてくると考えれば、あまり多くの数値を最初から掲げる必要はない。