バランス・スコアカードの位置づけ

 経営計画の策定手順は、まず、基礎予算である売上高の予測に始まり、これを獲得するための製品原価予算、在庫予算、販売費や管理費予算、人件費予算その他を見積もり、目標とする利益を獲得するために必要な予算を積み上げて、最終的には見積もり損益計算書に組み立てていく。この予算数値をもとに部門ごとに予算の運用と統制が行われていく。
 旧来の手法では、この経営計画に割りつけられた予算を下敷きにして運用・統制するというのが経営管理であった。したがって、一旦部門の目標が設定されると、どうしても他の部門との連携が疎かになり、全体最適よりも部分最適の方を優先するという管理スタイルになりがちだったが、バランス・スコアカードを活用することで情報の共有化が図れる。
 といっても、バランス・スコアカードが万能であるというわけではないが、バランス・スコアカードの特徴の一つである、戦略マップにより、戦略の視点(財務の視点、顧客の視点、内部業務プロセスの視点、学習・成長の視点)と戦略目標、主要成功要因、業績評価指標、ターゲット、アクションプランをクロスさせたマトリックスにより管理できる。
 すなわち、バランス・スコアカードは、経営計画にまとめられた目標値を具体的な戦略展開の視点で描かれたものであるから、部門目標の達成を目指すということは、全体目標達成のためにどのような役割を担っているのかを示唆する機能がある。換言すれば、バランス・スコアカードは、経営計画を遂行するためのガイドラインとして位置づけられる。
 全ての情報を一元化し、細大漏らさず管理対象とするよりも、大枠のガイドラインに従って、戦略を遂行すれば全社的目標を達成できるという管理手法の方が、環境変化に対する対応力がある。つまり、全体戦略の進捗状況を俯瞰する装置としてバランス・スコアカードを位置づければ、日々現場からもたらされる顧客情報の分析精度も高いものになる。
 全社員がバランス・スコアカードに馴染み、習熟度を増すにつれて、最終的には全社員がそれぞれの目標カードを作成し、自己管理するようになることが望ましいが、戦略目標達成とアクションプランに至る心理的距離が長いため、どうしてもコンフリクトが発生してしまうことは避けられない。まずはこれを導入することの意義を共有することである。