バランス・スコアカードの活用

 バランス・スコアカードは、社員が全員参加し、戦略マップを組織階層ごとに作成して管理することで、全体戦略の進捗状況を俯瞰することを目指したもので、「経営の見える化」の具体的ツールとして用いられている。ここで目指しているのは、やはり情報の共有化、ビジョンや戦略の共有化の促進である。これを可能にしたのがITインフラの整備である。
 ここで目指しているのは、部分最適にこだわるのではなく、全体最適を構築するためのSCM(サプライ・チェーン・マネジメント)であり、これを財務の視点、顧客の視点、内部業務のプロセスの視点、学習・成長の視点から、経営のバランスを一元的に管理することである。すなわち、部分最適を積み上げると全体最適になることを理想としている。
 ただし、本当の意味での経営戦略は、経営者の頭の奥にしまいこまれていることも多く、社員にはどうしても経営者の本音が推し量れないという場合もある。オーナー経営者によるワンマン経営では、特にこうしたケースが多く、こうした場合には、折角バランス・スコアカードを導入しても情報の共有化が図れず、期待したほどの威力を発揮できていない。
 例えば、ある中小企業では、経営者は現在の市場が成熟化していることを熟知しているが、経営資源も乏しいことから、現在の市場にしがみついて生き残ることを密かに決意していた。この会社の財務内容を分析してみると、生産性は低く給与水準もかなり低い。しかし、経常利益は毎年出し続けている。しかも、経営者はこの状況をいつも嘆いている。
 その嘆きというのは、毎年社員から給与の引き上げを要求されると、「生産性が低いのは君たちの働きが足りないからだ。給与を上げて欲しければ、もっと売上を伸ばしてもらいたい。」と、社長は何時ものワンパターンを繰り返すだけである。一理あると感じた社員は、そのまま引きさがるというのもいつものパターンであるが、当然抜本的解決には至らない。
 この会社は、端的にいうと、人件費を抑えることで利益を出しているにすぎないのであるが、経営分析をすると生産性の低さが給与水準の低さに繋がっているという結論になってしまう。自社や自部門の最適のみを目指すのではなく、協力会社や社員、エンドユーザーなどを含めた全体最適の改革を目指したものが、バランス・スコアカードなのである。